映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、併せて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。
第9回は、ともに難解かつ特殊な設定を扱った作品ですが、その実、うまくいかない現実から抜け出すすべを模索し続ける者たちの葛藤を描いた『アンダー・ザ・シルバーレイク』(11月23日 夜10:00 WOWOWシネマほか)と『ダウンサイズ』(11月28日夜7:30 WOWOWプライムほか)をマリアージュ。
『イット・フォローズ』(2014)でクエンティン・タランティーノ監督を驚愕させたデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督によるサスペンス。漠然と日々を過ごす青年サム(アンドリュー・ガーフィールド)が、恋する隣人の失踪を機にLAの街シルバーレイクに潜む陰謀に巻き込まれていく様を通し、人生において向き合うべきは何なのかを模索していく。
暗号解読や都市伝説、サブリミナル、陰謀論などを頼りに、失踪した隣人を捜し街をさまようサムの姿に翻弄され、あなたもまた未知の世界へといざなわれることだろう。ただ、描き方がぶっ飛んでいるだけで、本作はあくまでも青春映画。シンプルにいえば、ワンチャン狙えた女の子がいきなり消えて、諦め切れずに捜し回る男の話。
捜していく過程があまりにも難解なため混乱しがちだが、根っこにあるのは、恋する気持ちが原動力となって行動を起こし、その果てに良くも悪くも成長していく人間ドラマ。その辺りをくみ取りながら観ることができたのなら、より一層本作を楽しめるはず。
キャッチーな広告コピー、SNS、アイコン的存在が発する言動、追い掛ける義務のない世間の流行など、いつの世も、気付かぬうちに僕たちは何かに踊らされてはいないだろうか。今あなたが抱いている感情や趣味嗜好も、何者かによって誘導させられた末にたどり着いたものかもしれない。だが、どれだけ世の中を疑ったり勘繰ったりしたところで、すべての答えは得られない。
隣人を捜すサムを見ていればそんなふうにも思えてくる。どんなに答えを追い求めたところで、僕たちでは介入することの許されない領域が、存在自体認識することの叶わない何かがある。
この世の中は“知る者”と“知らぬ者”に二分され、その境界線を突き破るのは至難の業。それならば、今目の前にある世界で生きていくしかない。踊らされているかもと思っていても、あらがうすべを持たぬのであればどうしようもないのだから。
社会や政府の陰謀に迫るよりも先に、自身の生活を何とかする方が先決だし、どんな社会的立場の人間だろうが、この世に生まれたからには今この瞬間を楽しむ他ない。人に迷惑を掛けないに越したことはないが、迷惑を掛けずに生きられる人間なんていやしない。それならば、多少むちゃしてでも人生楽しんだ者勝ち。いや、踊らされた者勝ちなのかもしれない。
どれだけあがいても分からなければ、分かる人に聞けばいい。それでも答えが出ないのなら、考えたって仕方がない。もっと別のことに目を向けたり時間を費やす方が効率的。
現状をややこしくしているのはいつだって自分自身。トリッキーでクレイジーでエキセントリックな展開のオンパレードによってカムフラージュされているが、本作が描いていたのは、人生につまづいた男が再び一歩を踏み締めるまでの短くも果てしない時間であり、誰もが歩んできた、もしくは歩むことになるであろう普遍的でパーソナルな時間。難しく考えずシンプルに向き合えば、大いに得られるものがある作品です。
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