山崎ナオコーラが映画をテーマに等身大でつづるエッセイ。第10回は、第2次世界大戦中に自分を救ってくれた命の恩人に再会すべく、88歳のユダヤ人の老人がアルゼンチンからポーランドまで苦難の旅に出るさまを描いた感動のロードムービー『家へ帰ろう』(2020年1月6日[月]夜7:00、WOWOWシネマ)を観る。
普段、私たちは「友だち」という言葉を、「遊んだことがある」「相談し合ったことがある」「助け合ったことがある」といった意味合いで使うことが多いと思う。
でも、もしかしたら、もっと大きな意味で使うこともできるのかもしれない、とこの映画を観たあとに考えた。
88歳のアブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)はユダヤ人で、ホロコーストの生き残りだ。家族を殺され、自分も酷い目にあって逃げてきており、つらい思い出と共にある「ポーランド」という言葉を決して声に出さない。
生まれ育った家のことも、逃げ帰ったときに父親に抗いながら助けてくれた幼馴染のことも、アルゼンチンに渡って70年過ごしている間、ずっと思い出さないようにしてきた。しかし、娘や孫たちから家を取られ、施設に入れられることになったのをきっかけに、「友人にスーツを届ける」という約束をとうとう果たすことにする。
70年も前の友人が今も生きているのか、もしも会えたとしてもどのような心を相手が持っているのか、まったくわからない。でも、仕立て屋らしく、バリッとしたおしゃれをして出発だ。目的地は声に出せないから、「ポーランド」と書いた紙を見せる。
アブラハムは結構な頑固ジジイになっていて、なんでも金で解決しようとするところもあるのだが、所持金は心もとなく、しかも途中で盗難にあう。さあ、どうなるのか?
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