そしてすごいのは、こんな無茶苦茶な世界を大真面目に役者たちが演じ切っているところだ。なかでも強烈なのは主人公、麻実麗に扮したGACKT。容姿端麗で成績優秀でスポーツも万能、武道にも長けたパーフェクト男子を完璧な耽美さで演じのける。そんなGACKTは埼玉県民をあぶり出すための踏み絵として差し出された、シラコバト(埼玉の“県民の鳥”)のイラスト付きの草加せんべいを踏めずに苦悩するのだ。こんな面白いことはないではないか。
GACKTの役どころは、埼玉を解放するために東京都民として潜り込んだ“隠れ埼玉県人”。宝塚版の『ベルサイユのばら』のような出で立ちで、背中にバラを背負ってそうなキラキラ具合がたまらない。そんな麗と妖艶なキスも見せちゃう“千葉解放戦線”のリーダー、阿久津翔役の伊勢谷友介や、“伝説の埼玉県人”埼玉デューク役の京本政樹など、見目麗しき男性たちがそれぞれの魅力を発揮し、照れなく本気でこの世界に挑んでいるのが素晴らしい。
さらにW主演である二階堂ふみが東京都知事の息子で、麗に恋心を抱く純情ボーイズラブ少年、壇ノ浦百美を体当たりで演じている。
本当に楽しいおバカ映画ではあるが、それを生かすのも殺すのも役者たちの演技。大人の本気の悪ふざけ、本気の茶番劇をここまで盛り立てた演技は、ガチで楽しい。その競演(狂宴?)だけでも見る価値ありだ。
映画ライターの傍ら演劇集団トツゲキ倶楽部で主宰、演出、脚本を手掛ける。また、役者のためのワークショップも毎月開催(詳細は「トツゲキ倶楽部」で検索を)。
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