“cutting edgeの親分”スカパラがデビュー30周年イヤーも変わらず「ひとりひとりの観客に届けたい」

2020/02/05 19:23 配信

音楽

Awesome City Club


MC番長・谷中敦は「cutting edgeは流行の先端を切り取るレーベルとしてはじまりました。まだ切り取れてるかな?」と問い掛ける場面もPhoto:古溪一道・川澤知弘


ここまでの出演陣を振り返っても、cutting edgeの所属アーティストはひとつのジャンルにとらわれない音楽性の振り幅を持っている。

この日会場を都会の洒脱なダンスフロアに変えたのは、マツザカタクミの脱退を経て4人編成になり、今年からcutting edgeに移籍したAwesome City Clubだ。

まばゆく光る「A・C・C」の文字をバックに「青春の胸騒ぎ」でライブをスタートすると、atagiとPORINのツインボーカルならではの華やかな存在感と、ファンクやR&Bを取り込んだ横ノリのグルーヴが広がっていく。

続く「アウトサイダー」を経て、3曲目「Don't Think, Feel」では、atagiが「みんなで踊ってみませんか?」と観客にダンスを促し、会場はますますミラーボール輝くダンスフロアのような雰囲気に。そうしたサウンドに加えて、男女の駆け引きやロマンティックな雰囲気が浮かぶような歌詞も彼らならではだ。

その後はレーベルを移籍した今のフレッシュな気持ちを観客に伝えつつ、発表したばかりの新曲「アンビバレンス」を披露。ブラック・ミュージックを通過したポップスとエレクトロニックな要素が融合した、彼ららしいキラー・チューンで、ライブではカッティングギターがより強調され、洗練されたグルーヴが生まれていた。

以降はヴィンテージソウル風の「SUNNY GIRL」を経て、バンドの代表曲のひとつである「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」でフィニッシュ。

ステージの両端に広がったatagiとPORINが向き合って歌い合うステージングに歓声が上がった他、「回りつづける」という歌詞に合わせて二人ミラーボールが回るジェスチャーをして、ロマンティックな余韻が広がった。

tricot


アクシデントも味方に付けて“インストバンド”としてのパフォーマンスを展開したtricotPhoto:古溪一道・川澤知弘


続いて登場したのは、昨年cutting edge内にプライベートレーベル「8902 RECORDS」を設立したtricot。変拍子を駆使した予測不能のアンサンブルと、中嶋イッキュウの歌がお互いの個性を消さない形で融合する独特な世界観で人気を集めている。

だが、この日は中嶋イッキュウの喉の調子が悪く、急遽最新アルバム『真っ黒』から8曲をインストで演奏。中嶋イッキュウが声を絞り出すように「今日はインストバンドとして、全曲新曲でやります」と観客に伝えると、ピンチをチャンスに変えようとする気概に大歓声が巻き起こる。

「あふれる」や「真っ白」「真っ黒」といった公開済みの楽曲だけでなく、「まぜるな危険」「右脳左脳」「みてて」「秘蜜」「低速道路」といった楽曲も含む、この日だけの貴重な演奏となった。

中でも印象的だったのは、普段は歌と融合して楽曲の根幹をなす変拍子や、キダ モティフォの独創的なギターを筆頭にした各メンバーの演奏が、ボーカルレスの形式によって細部まで印象的に感じられたこと。

ステージ中央のヒロミ・ヒロヒロを囲むように向き合ったメンバーが自在にテンポを変えながら、時に激しく、時にメランコリックに演奏を繰り広げると、普段よりも際立つキダ モティフォ&ヒロミ・ヒロヒロのコーラスも含めて、楽曲内に何曲分ものアイディアが詰め込まれているような構成によって、終始ダレル瞬間がない。

終盤には「こんな状態でも出演させてくれたcutting edgeに感謝しています。これからもよろしくお願いします!」と告げてふたたび演奏が盛り上がり、メンバーが深く礼をした瞬間に拍手が起こった。

国内はもとより、海外でも様々な経験を積んできたバンドの底力を伝えると同時に、最新アルバム『真っ黒』への期待をさらに高めてくれるようなライブだった。