超歌手・大森靖子が作る“大森靖子”―メジャーデビューからの5年と渾身のベストアルバムを語る<インタビュー>

2020/02/12 18:10 配信

映画

大森靖子撮影=星野耕作


「大森靖子」っていうものを作っている意識


――初のベストアルバムの手応えはいかがですか?

曲を作りすぎているタイプなので、3枚組で44曲入れられたのが満足ポイントです。「これを入れないとベストじゃない」っていうのが人それぞれ違うじゃないですか。それを全部入れなきゃ!と思っていたので、44曲になった時点で、結構入れられたなと。あと、本当は全部の曲にミュージックビデオもジャケットもつけたいなっていう気持ちがあったので、ベスト盤の機会に1曲1枚のジャケットをつけられたのが嬉しかったです。

――アルバムのタイトルが「大森靖子」ですが、どのように決めましたか?

他に候補はなく決まったんですけど、「大森靖子」っていうものを作っている意識が結果的に高いですね。自分が作っていくものが「大森靖子」になっていくと感じているし、出したものしか受け取ってもらえない世界だと思うので。自分っていうものは自分でしか作っていけない、それが「大森靖子」だという思いがタイトルに入っているのかなって思います。

【写真を見る】大森靖子の撮り下ろしグラビア写真14枚撮影=星野耕作


――自分の人格とはまた別に、作品としての「大森靖子」を作っている感覚でしょうか?

うーん。あんまり自分に人格があるような感じがしてなくて、それを知ってほしいという欲求も、肯定してほしいという欲求もあまりないんですよ。でも自分の人生の仕事っていうものはたくさんあって、例えば「感情の貧富の差を無くす」とか、「まだ歌われていない感情を歌いつくす」とか、そういうことが仕事だなと思っていて。「こういう風になったら世の中ちょっとよくなるのにな」とか、「人も生きやすくなるのにな」とか、そういうことをしているのが「大森靖子」。その「大森靖子」という媒介をもって自己肯定しているならば、それは聴いている人によって作り出している自己肯定でしかないので、本当は私は何も携わってなくて、その人が「大森靖子」を作ってくれていると思っています。それをまた私が預かって上に運んでいくっていう感覚ですね。

大森靖子撮影=星野耕作


――聴いた人が「大森靖子」をさらに作っていっていると。

聴いた人が違う装備品を付けてくれて返してくれた「大森靖子」に対して、さらに「これを付けたらいいんじゃない?」とか、「それはいらないよ!」とかを返していくのが私っていう感じの捉え方をしています。聴いた人が「そういうこと考えて作ってなかったのに」っていう感想を書いてくれることってあるじゃないですか。アーティストはみんなあると思うし、そう言われてから「最初からそう考えて作った」って言っている人も多いはずなんですよ(笑)。でも、それって結構いいなって思っています。聴く創造をさせる創造もこちら側にあって、その余白を消したり、書いたりするバランスっていうのもものづくりだと思うので。