過去に実在した人物を描いた『ナチス第三の男』とは打って変わって、フィクションかつ現代が舞台の物語。ドローンを用いた作戦やSNSなどを通じた個人情報の監視など、今この時代だからこそ起こり得る情報戦やサイバー攻撃などの描写が盛り込まれている。
第二次世界大戦以降も各地で紛争が続いており、完全な平和が訪れたわけではない。劇中、シルバが広島と長崎に落とされた原爆に言及するシーンがあるように、描かれている本質はいつの世も変わらぬ人間の在り方や、争い事から生じる怒り・悲しみ・憎しみの連鎖。
そして、『ナチス第三の男』という“過去”を通して強く実感できたものがある人なら、『マイル22』という“今” を通して実感できるものもきっとある。
銃撃戦ばかりでドラマが希薄に感じられるかもしれないが、争い事から抜け出せず、やったやられたの報復の呪縛から抜け出すことのできない人間の弱さやもろさを、明確な打開策の確立なくして真の平和はつかみ取れないことを本作は描いている。
平和を守るのではなく、脅威になり得るものを取り除くのが仕事だとシルバは言う。今ある平和を維持するのではなく、これから先の平和をつかみ取るための戦いを彼らはしていたのだと思う。
しかし、情報戦で相手の一歩先を行ったり戦闘スキルだけを磨くだけではどうにもならない。そのやり方では、相手側のすべてを討ち滅ぼすことでしか終わりは来ない。それでは真の平和など到底勝ち取れない。
理解し合うための術を築けなければ、報復の連鎖からは抜け出せない。当然その答えを描けているはずもないのだが、そういったことに向き合っている作品であると僕は思う。何より、答えを見出さなければならないのは、今この現実を生きている人間だ。
過去の悲惨な歴史や、悪しき思いにむしばまれてしまう人の心を見つめ、暗闇の中であろうと道を模索し続けていくことの気高さを感じさせてくれる2作品、ぜひセットでご覧ください。
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)