英国ブッカー賞受賞作家ペネロピ・フィッツジェラルドの小説を、『死ぬまでにしたい10のこと』(2003)のイザベル・コイシェ監督が映画化。本屋を営む戦争未亡人のフローレンス(エミリー・モーティマー)が、町の有力者の横槍によって窮地に立たされていく様を通し、正しさの定義を問う一本。
舞台は1959年のイギリス。スマホやネットもない時代だからこそ、余計な不純物が取り除かれスッと心にしみわたってくるものがきっとある。一方で、時代故のしがらみも描かれている。
保守的で、閉鎖的で、新しい価値観を拒みがちな小さな町。決められた枠からハミ出る者がいれば、町の人から避けられるか攻撃されるかのふたつにひとつ。今とは違い、何より家柄や地位がものをいう時代。何の力も後ろ盾も持たない者があらがうには、無知のままではいられない。序盤は穏やかな展開だが、次第にどうにもならない現実がフローレンスと観る者の心をむしばみ始めていく。
そう、現実は物語のようにうまくはいかない。正義が勝つとは限らないし、土壇場で一発逆転が起きる保証もどこにもない。どれだけ慎ましく生きようと、理不尽な目には遭う。
分かり合えない人は必ずいるし、逆に誰かにとっては、自分がその“分かり合えない人”になることも。すべての人が分かり合えることは、絶対にあり得ない。誰だって自分の言い分があるし、己の心に従って生きていたい。
でも、己の正しさと法における正しさが必ずしも一致はしない。悪しき想いを抱えた者であっても、法の正しささえ味方に付けてしまえば、その悪意は正義と見なされる。そんな世界を僕たちは生きている。
正しさの定義とは何なのか、理不尽な世の中と向き合う上で避けては通れない問題と真摯に向き合った本作は、あなたの心に何とも言い難い余韻を残すはず。
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