物語の舞台は1950年代のロンドン。社交界で華々しい存在感を放つ天才仕立屋、レイノルズは若いウェイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会い、彼女をミューズとして迎え入れる。だが狂ったようにドレスを作り続けるレイノルズにアルマは不満を募らせ、彼の秘められた真実に踏み入っていく。
狂気じみた天才レイノルズの役は、やりすぎ俳優のデイ=ルイスにピッタリ。彼は資料を読み漁り、美術館に通って古いドレスをスケッチするだけでは飽き足らず、ニューヨーク・シティ・バレエ団の衣装監督に師事して約1年間も裁縫を学んだ。すっかりオートクチュールの技術を自分のものにした彼は、妻に手作りの手袋とドレスを贈ったという。夫婦の逸話は素敵だが、これもかなりの、やりすぎ。
とても残念なことに、彼は『ファントム・スレッド』で俳優を引退してしまった。きっとアイルランドの自宅で黙々と木材や皮革に向き合い、穏やかな時間を過ごしているのだろう。だが伝説はこれからも映画界で生きていく。「困難な役に挑むのは俳優の本能」と語ったデイ=ルイス。心身を削って役を作り上げる彼のやりすぎ魂は、何度観ても圧倒的なリアルを感じさせてくれる。
エンタメ系雑誌の編集部員を経てフリーに転向。映画、TV、演劇のジャンルで執筆活動中。
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