本作の軸となるのは、アイアンマンというあまりにも偉大な存在がいなくなった世界で、スパイダーマンがどう自己のアイデンティティを見いだしていくのか――という部分。そのテーマを描くために、序盤からピーターには“試練”が畳み掛ける。
マスコミからは“次世代のヒーロー”の過度な期待をかけられ、現実逃避で行った旅行先では、至る所でアイアンマンへのメッセージを目にするのだ。さらに、トニーがピーターに宛てた“メッセージ”と“アイテム”、アイアンマンと似た雰囲気を持ったミステリオの存在が、ピーターを“幻影”で包み、悩ませていく。
アイアンマンとは違い、世間に正体を明かしてはいないものの、もはや一介の高校生として生きることを許されない現実。アベンジャーズの中でも最年少であるスパイダーマンの魅力は、未成熟な等身大の青年が成長していくドラマ面にあるが、本作はその特長と『アベンジャーズ』シリーズの流れ、さらには観客の“アイアンマン・ロス”を見事にミックスさせ、ピーターに奮起を促していく。
そもそもピーターとトニーの関係性は、本作に至るまで4作品にわたって紡がれてきた。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)』でトニーがピーターをスカウトし、『スパイダーマン:ホームカミング』でヒーローとしての在り方を叱咤とともにピーターに注入、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(2018)』で共闘&ピーターがアベンジャーズ入りを果たすも、敵サノスの“全宇宙の生命を半分にする”たくらみによってピーターが消滅、『アベンジャーズ/エンドゲーム』でトニーがピーターを復活させ、再び共闘するが――といった流れだ。
トニーはピーターの“父親代わり”として成長を見守り続け、ピーターもトニーの期待に応えようと奮闘し続けてきた。しかし、この先の道は、ピーターが一人で歩んでいかなければならない。トニーから受け継いだすべてを背負って――。
そういった意味では、今回がMCUでは初のスパイダーマンの“単独作”といえる。われわれが目にするのは、これまでの4作品すべてを布石とした、堂々たる「独り立ち」だ。
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