3月28日(土)の放送で最終回を迎える連続テレビ小説「スカーレット」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか)。同作でヒロインを演じた戸田恵梨香について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(※「スカーレット」「SPEC」に関するネタバレが含まれます)
戸田恵梨香は朝ドラ「スカーレット」で役者として大きく飛躍した。
そう感じたのは、最終週3月23日放送の第145話。信楽で陶芸家として生きる主人公・川原喜美子の半生を描くドラマの終盤、喜美子はひとり息子・武志(伊藤健太郎)の闘病に向き合う。
145話では、白血病になった武志の体調が次第に悪化し不安に打ち震えているときの喜美子の対応がじつにたくましかった。味がわからないから食事をする気がしないという武志に「食べんと力でえへん」と淡々と言う態度。
部屋にこもって、すでに亡くなった同じ病気だった少年の手紙を読んで「おれは生きたい」と泣く武志の頭をしっかり抱えたときの表情。こういった場面はたいてい、主人公が感情(主に哀感)をあふれさせることで、視聴者に感情移入させることが多いものだが、戸田恵梨香はそうしない。
どこまで本人の意志で、どこまで脚本や演出の領域なのかは定かではないが、喜美子は厳しい試練にひたすらじっと耐え忍んでいる。「食べな 力つかへん」なんてかなりぶっきらぼうにも聞こえるほど。そこには、悲しんでいても生きられない。生きるためには食べて栄養をつけなくてはいけないという根源的な視点がある。
武志の頭を抱えたときの喜美子の表情は、苦しみと悲しみを全身にたたえ、それでも生きていくという強さがあった。その様を“母”と限定してしまうことはもったいない。母であるし、川原喜美子というひとりの人間として、武志に向き合っているような印象も感じた。
成人した息子役の伊藤健太郎と喜美子を演じる戸田恵梨香の2ショット。朝ドラでは、若い役者が、あまり年齢の変わらない役者と母子役をやることがよくある。
自身の若さを抑え、息子を広く大きく包み込むことは難易度が高い。若い役者が実年齢より老けた役をやるとき、メイクで皺やシミを描き、白髪をつけ、背筋をやや丸め、ゆっくり動いたりしゃべったりするようなことがあるが、喜美子を演じる戸田恵梨香はいっさいそういうことをやっていない。
もっともまだ40代後半だからそんなに老けることもないのだが、極端に老けるよりも微妙に年をとったおばちゃんになるほうが逆に難しいともいえるだろう。
それを戸田恵梨香は長い時間、工房で土(陶芸)と共に生きてきた強さを滲ませてきた。しかも、ヘアメイクもあっさりめ、衣裳も質実剛健。スカートははかずパンツばかり。そこにはハードボイルドの風情すら漂う。表面的な可愛さ、美しさにこだわらない、こういう雰囲気の出せる女性の役者はなかなかいない。