“ホームドラマ”貫いた『スカーレット』喜びも哀しみも…“何気ない日常”の尊さ伝える

2020/03/28 08:20 配信

ドラマ

川原喜美子(戸田恵梨香)、川原武志(伊藤健太郎)(C)NHK


朝起きて、ご飯を作って食べて、仕事して…


ある種、人生のテンプレートのような事柄よりも、お父ちゃんの汗臭い手ぬぐいが出稼ぎに行く際カバンに入っていた困惑。お茶漬けを作って食べて泣くちや子さん(水野美紀)の情。猫が毎日出てきてやがてそれが信楽太郎(木本武宏)のヒット曲のヒントになったサプライズ。女中の師匠・大久保さん(三林京子)の「とやっ」、お母ちゃんがコーラスで声が出なくなって口をパクパクするユーモア、家庭菜園照子(大島優子)、信作(林遣都)と百合子(福田麻由子)の「会いたい」「会いたい」と言い合う夜中の電話、工房でみんなで行う体操……等々、枚挙に暇ないほどの、何気ないけれど、登場人物たちならではの、個性ある描写をすることに凝っていた。

朝ドラではよく出てくる、ありし日の家族の写真が、「スカーレット」では、お父ちゃんの遺影は武志が子供時代に描いた絵であった。

何気ない日常の尊さを描いてきた。なにしろ、喜美子が前半大阪に数年出稼ぎに行った以外(大阪編は25週のうち正味3週間という短さ)、40年弱、信楽の川原家に住んでいる。土間と板間のあばら屋が、だんだんと畳になってカーペットが敷かれ、土間にテーブルや家電などが増えて住みやすそうに整っていく。喜美子が結婚したときは空いた土地に母屋や工房が建ち、穴窯までが作られる。

この家で、朝起きて、ご飯を作って食べて、仕事して、団らんしたりケンカしたりして、寝て、それをろくろが回るように繰り返す。時々は外から訪問者たちがやって来て、交流して、また去っていく。父が死に、母が死に、妹たちが嫁に行き、夫を婿にとり、息子を生んで、夫は去り、たまに遊びに来るようになり……。喜美子だけがずっとこの家にいる。タイトルバックはまさにこの日々を描いていた。

喜美子はたくさんの哀しみに出会ったけれど、実家を失う哀しみだけはない。これほど幸福なことがあるだろうか。

第一話で広大な琵琶湖が出てきて、喜美子たち家族がその清々しさを満喫して以来、抜けのいい自然はほぼ出てこず、最終週でようやく琵琶湖が再登場するのみ。あとはもうずっとドラマの舞台は、ほぼほぼ川原家だ。この状況はむしろ、朝ドラの基本である”ホームドラマ”としての骨格がしっかりしていると言っていい。家族を描くってなんだろうということに立ち返ったようにすら思う。

ここのところ、“女の大河ドラマ化”と私が呼んでいる、有名人がモデルの波乱万丈の半生記が多く、支持もされてきた朝ドラだが、「スカーレット」のような、ささやかな日常を描く朝ドラがあってもいいと思う。もしかして「スカーレット」の本当の主役は喜美子を包み込んできた紅い屋根の「家」だったのかもしれない。(文・木俣冬)