スピードワゴン小沢一敬「映画の歴史を変えた」と称賛するタランティーノ監督作<ザテレビジョンシネマ部>

2020/04/10 07:00 配信

映画

【写真をみる】小沢が「今はこれが教科書みたいな存在になってると思う」と語る『パルプ・フィクション』(C)Miramax Films. All rights reserved


──そんな作品の中で、小沢さんがシビれた名セリフを今回も選んでもらうわけですが、今回ばかりは、いいセリフが多すぎて選ぶのが難しいんじゃないかと。

小沢「そうなんだよね。小ネタのセリフだったり、カッコいいセリフだったり、選びたいものはいくつもあるのよ。ただ、この映画といえばこのセリフしかないだろっていうのが、ひとつだけあって」

──そのセリフは?

小沢「ギャルソン! コーヒーを!」

──オープニングのシークエンスで、コーヒー・ショップで強盗を働こうとしているパンプキン(ティム・ロス)とハニー・バニー(アマンダ・プラマー)の会話の途中、パンプキンが女性店員を呼び止めて言うひと言であり、オムニバスの最終3話目で、ギャングのヴィンセント(ジョン・トラヴォルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)がコーヒー・ショップで朝食をとっているところに再登場するセリフですね。

小沢「そうそう。オープニングのところで『ギャルソン! コーヒーを!』ってティム・ロスが言ったのに対して、女性店員が『“ギャルソン”は男よ』ってムッとして答えるくだりがあって、ただの小ネタなのかなって思ってると、最後の場面で、ギャングの2人が話してるところに、いきなり『ギャルソン! コーヒーを!』ってセリフがあっちから聞こえてくる。その瞬間に、観客は『あの店だ!』って気づくんだよね」

──初めて観たときに必ず「あっ!」ってなるところですよね。「これからここで強盗騒ぎが起きるんだ! どうなるんだ?」って、めちゃくちゃ盛り上がる。

小沢「このセリフが再び出てきたときに、この映画のすべてのタネ明かしがされるわけじゃん」

──そうですね。3話からなるオムニバスの最終話ですが、時系列通りに並べると、実はこのコーヒー・ショップの話がいちばん最初の話になる。その後にオムニバス1話目のギャングのマーセルス(ヴィング・レイムス)の妻であるミア(ユマ・サーマン)とヴィンセントのデートの話、そして、2話目の八百長試合を依頼されたボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)とマーセルスの話、というのが正しい流れになるんですが。この映画はその時系列をごちゃごちゃに入れ替えた上、それぞれ違う話のように見せておいて、実は全部がつながっているという。このセリフでそのカラクリに気づくわけです。

小沢「最初に出てくるときは始まってすぐだから、意味のあるセリフだとも思わないし、ただ流れていく一行でしかないんだけど、実は何気ないこのセリフが、映画の全てをつなげている紐のような役割になっている。そういう意味で、いちばん重要なセリフだと思うんだよね」

──そうですね。今までそこに気づいてなかったです。

小沢「そのためには、オープニングのときにこのセリフを立たせて、印象づけておく必要があるんだけど、それがすごい上手くできてるの。わざとらしくなるほどには振りすぎず、ちょうどいいぐらいの小ネタ感で、自然に立たせてる。だから、もう一回出てきたときに『あっ! つながってる!』ってなる。あの瞬間が最高に気持ちいいんだよね…って、もう、完全なネタバレをしゃべってるけど、大丈夫?(笑)」

──まあ、公開から四半世紀も経ってますから。最後までネタバレしたところで、誰も怒らないでしょう。

小沢「何度も言うけど、他にもいいセリフはあるのよ。同じ最後の場面で、ジュールスがパンプキンに財布の中の金を全部あげて、『金は、やったんじゃねえ。あるブツを買ったのさ。何を買ったと思う? 貴様の命さ』って言うところとかも、カッコいいじゃん」

──カッコいいですよね。

小沢「そういうカッコいいセリフなんかいっぱいある。カッコいいセリフも書ける脚本家・タランティーノ、面白いセリフも書ける脚本家・タランティーノ、だけど、意味のないセリフに意味を持たすことができるのが、監督・タランティーノのすごいところなのよ」

──いや~、何度も何度も観てる映画なのに、今その説明を聞いて、ちょっと鳥肌立っちゃいました。

小沢「もう、決まったね、今回は」

──ばっちり決まりました。

小沢「じゃあ、あとはみんなでゆっくりお茶しながら、無駄話でもして帰ろっか。マネージャー! コーヒーを!(笑)」

小沢一敬



愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。

取材・文=八木賢太郎