山崎ナオコーラが映画をテーマに等身大でつづるエッセイ。第15回は、悩める中年男性たちが人生の再起を懸けて悪戦苦闘するさまを実話をもとに映画化し、本国フランスで大ヒットを記録した痛快群像喜劇『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』(6月22日(月)夜6:45、WOWOWシネマ)を観る。
『「おじさん」というのは、差別語かどうか、ギリギリのところなんじゃないかと最近の私は思うようになり、使うのに慎重になっている』
若い頃は何の気なしにどんどん使っていたのだが、大体が揶揄するためのセリフになってしまった。また、女性蔑視に反逆するための有効な言葉とも思っていたのだが、自分自身の年齢が上がり、仕事でも言葉が通り過ぎるようになり、自分が予想していた以上に自分の言葉が強く響くときがままあることにヒヤリとして、それから、「おばさん」と言われるから「おじさん」と言い返すのも違うとも思い、あとそれから、立場の弱い優しい男性もたくさんいることに気がついたのもあり、「『“おじさん”という言葉は相手を傷つけるかもしれない』と考えながら使用しないとな」と反省している。
だが、『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』は、「おじさん」という言葉を使わずに紹介するのは難しい。
中年の「おじさん」たちが、公営プールのシンクロナイズドスイミングのチームで一念発起して、世界選手権の金メダルを目指す物語だ(ちなみに、2017年からアーティスティックスイミングと名称が変わったらしいが、作中ではシンクロナイズドスイミングとなっている。時代設定かもしれない)。
主人公のベルトラン(マチュー・アマルリック)は、うつ病を患って会社を辞め、休職中だ。だが、子どもたちに軽く扱われたり、家に居場所を感じられなかったりして、就職活動を始めてしまう。そんな中、たまたま出かけた公営プールで張り紙を見かけ、シンクロナイズドスイミングへの挑戦を決める。アルコール依存症などの自身の問題を抱えるコーチと、やはりそれぞれの問題を抱える一癖も二癖もある個性的なメンバーたちとの練習が始まる。
メンバーは8人だが、フィーチャーされるのは4人だ。入れ替わり立ち替わり「かっこ悪い人生」を披露する。
ベテラン俳優の演技でコミカルに、かつ、センスのいい音楽と共にリズミカルにつづられる。
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