名優レオナルド・ディカプリオの“今”…“過去からの脱却”と“進化”を掘り下げる<ザテレビジョンシネマ部>

2020/05/15 07:05 配信

映画

演技力の“深化”を見せた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)』


ディカプリオとは『ジャンゴ 繋がれざる者(2012)』でもタッグを組んでいるクエンティン・タランティーノ監督作。初共演となるディカプリオとブラッド・ピットが、スターの座に返り咲こうと奮闘する落ち目の俳優とその相棒であるスタントマンを演じ、タランティーノ監督が女優シャロン・テートが殺害された実際の事件を絡めてハリウッドの光と闇を映し出す。

ディパーテッド』以降、順調に出演作品や役柄の幅を広げていったディカプリオ。『ディパーテッド』を目にした後に本作を目にしたのなら、止まることなく成長し続けてきた彼の“進化”、磨き抜かれた演技力の“深化”、ハリウッドを代表する俳優としての“真価”を存分に感じ取ることができるだろう。

年齢も40代半ばに差し掛かり、さながら往年のロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジャック・ニコルソンらの匂いを醸し始めてきたかのように感じているのは僕だけではないはずだ。受賞には至らなかったものの、本作の演技でも第92回アカデミー賞主演男優賞にノミネートを果たしているのは、もはや当然の結果であると言えよう。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(c)2019 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.


ところで、本作を観るにあたり事前に知っておいていただきたい要素がひとつある。それは先述したシャロン・テートの存在だ。

劇中にも登場する巨匠ロマン・ポランスキー監督の妻であったテート。当時妊娠8カ月目であった彼女は、ポランスキー不在時の自宅で狂信的なカルト信奉者達の手により惨殺された。

全米を震え上がらせた実際の凶悪事件が、少年時代を事件のあったLAで過ごしたタランティーノの記憶や思い出と、そしてフィクションの存在である主人公たちの葛藤や友情と、物語の中でどのように絡み合っていくのか。それもまた本作の見どころのひとつとなっている。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(c)2019 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.


162分という長尺の作品であるのだが、落ち目の俳優の苦悩も、テートに関するあれこれも、全ては怒濤のラスト13分に深い意味を持たせるためにあったのだと僕は思う。

ネタバレになるため詳細は書かないが、タランティーノ監督の圧倒的な力技によって引き込まれてしまう部分と同時に、僕たちの人生においても共通し得ることが集約されていた。

それぞれがそれぞれの人生において最善を尽くすことができたのなら、たとえ望み通りの結果は得られずとも、その頑張りや熱量は知らず知らずの内に周囲にも影響を及ぼしていく。本気で何かに向き合い努力した時間は、他者の運命や未来さえも変えていく可能性を秘めている。

無冠であったスコセッシにオスカーを与え、長い時間の果てに自らもオスカーを手にしたディカプリオ然り、本作で彼が演じる俳優の生き様然り、不条理を嘆きながらも抗い続けた時間は決して無駄にはならない。

その恩恵を受けられるのは自分ではないかもしれないが、きっと何かに繋がっていく。ディカプリオ本人が辿ってきた道筋が、劇中の男達が辿っていく道筋が、僕たちにも宿り得る多くの可能性に気付かせてくれるに違いない。

紆余曲折を経て現在の地位にまで辿り着いた名俳優レオナルド・ディカプリオ。その険しくも輝かしい道程を存分に味わうことができる2作品、ぜひセットでご覧ください。

文=ミヤザキタケル



長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。