「憑依型俳優」という呼び名がある。役が乗り移ったようなレベルで演技ができ、作品ごとにまるで別人になる――そんな役者たちを指す言葉だ。有名どころでいえばジャック・ニコルソンやクリスチャン・ベール、ジェイク・ギレンホールなどが挙げられるが、日本の若手俳優でいえば、やはり窪田正孝を推さずにはいられない。
1988年生まれの31歳。2006年にデビューし、現在ではNHK連続テレビ小説「エール(2020)」の主演や、映画『初恋(2019)』などで活躍。デビュー当初はなかなかオーディションに通らなかったそうだが、フィルモグラフィを見ると、大きなブランクもなく、コンスタントに出演歴を重ねてきている。
ドラマ「Nのために(2014)」はある事件で心に傷を負った青年、ドラマ「デスノート(2015)」では狂気に目覚める大学生、映画『るろうに剣心(2012)』では非業の死を遂げる武士など、役柄は実に幅広い。高いレベルでキャラクターに成り切れる演技派として、引っ張りだこだ。
窪田の真骨頂は、「劇中で変化する“沈む”演技」にあるだろう。純朴な青年が狂気や修羅の道に堕ちた時にどうなるか――という“落差”を、小細工なしで、己の身体だけで表現できるという点で、窪田は他の追随を許さない。彼が憑依型俳優の筆頭に挙げられる大きな理由だが、物語の中で堕ちる・変異するキャラクターを演じた際に、抜群の存在感を発揮する。
彼の代表作のひとつである『東京喰種 トーキョーグール(2017)』(6月5日(金)夜9:00、WOWOWシネマほか)は、その好例だ。人を食らう“喰種”が跋扈する社会。読書好きのおとなしい大学生は、喰種の臓器を移植されたことで“半喰種”となってしまう。
原作者の石田スイのたっての要望で主人公のカネキを演じた窪田は、体に異変が生じて「人間の食べ物を受け付けなくなる」シーンで、パニックになりながら冷蔵庫の中のものを口に入れては吐き続ける、という強烈な演技を披露。その後、ふらふらと街に出て人肉を欲する姿、その後人間の死体を見つけて恐怖のあまり絶叫する姿など、「もし突然、喰種になってしまったら?」を生々しく表現している。
虚構性の高い物語であるが、ぞっとするようなリアリティが常に伴うのは、窪田の生身の演技がけん引しているところが大きい。後半には怒濤のアクション・シーンも用意されており、パワーアップしたカネキが縦横無尽に駆け回り、相手を圧倒する雄姿を堪能できる。
続編となる『東京喰種 トーキョーグール【S】(2019)』(6月5日(金)夜11:05、WOWOWシネマほか)では、より洗練されたバトル、深化した心情表現など、あらゆる点で熟成された演技を披露。アクロバティックな戦闘スタイルや、松田翔太演じるエキセントリックな美食家の喰種との掛け合いも見ものだ。
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