映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。
今月は、映画祭などでの受賞歴を持つ3本を紹介します。
『天国でまた会おう(2017)』は、ピエール・ルメートルのベストセラー小説を映画化し、第43回セザール賞で監督賞ほか全5部門を獲得したアルベール・デュポンテル監督&出演のフランス映画。戦争に傷つけられた男たちの大胆な詐欺計画を通し、戦争の恐怖、己の心に従う勇気を描いた作品です。
戦地でアルベール(デュポンテル)を助けた際に爆撃を受け顔の下半分を失い、戦後、家族との連絡を絶ったエドゥアール(ナウエル・ペレス・ビスカヤール)と、戦地から戻っても戦前の職や恋人を失い、エドゥアールの面倒を見る日々を送るアルベール。エドゥアールは仮面を着け己の心にふたをすることで多くをごまかすが、本当に欲するものを手に入れない限り、永久に心は満たされない。別の道を歩むにしても、何らかの決着をつけないことには踏み出すことなど許されない。その道理を僕たちは知っている。ただ、彼らと僕らでは大いに異なる点がある。それは、心に生じた問題が戦争によってもたらされたものだということ。戦争によって生じた傷はそう簡単には癒やせないのだから。
深く刻まれた傷を緩和する方法があるとすれば、おそらく他者の善意や無償の愛しかないと思う。痛みを抱えさまよい続けてきた男たちは、力を合わせることでどうにか道を模索し、その道が正しい道であるかどうかはさておき、他者からの善意や無償の愛に触れていく中で抱えた問題と向き合うための力を蓄える。本来追い求めていた願いに心を傾けられるようになり、これまで歩んできた道を自覚し次の選択を決断する。その果ての終局を目にした時、あなたの心は揺さぶられることだろう。
第1次世界大戦後のフランスが舞台であるが、描かれている本質はいつの世も変わらぬいびつな戦争の在り方。多くの犠牲の上に成り立つ今を生きる僕たちにとって、決して他人事では済ませられないことばかり。平和の価値、戦争の愚かしさ、心が通じ合う存在がいることの喜びを感じさせてくれる名作です。
『火口のふたり[R15+指定版](2019)』は、直木賞作家、白石一文の小説を柄本佑&瀧内公美主演で映画化し、第93回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位を獲得した荒井晴彦監督作。かつて恋仲であった男女が再会し、女性の婚約者が戻るまでの5日間をともに過ごす中であらわになっていくさまざまな感情を通し、死と生への執着、未来を見据えて生きる姿勢を映し出す。
「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」その言葉をキッカケに、体を重ね合わせていく男女。婚約者のことを考えればふびんでならないが、魅力的な俳優が演じているということも相まって、他人の情事をのぞき見るかのような、いけないことに立ち会っているかのような、一種の愉悦を覚えてしまう。そして、観る側が彼らの抱く感情の断片を自身も持ち合わせていることに気が付けば、なんの違和感も抱くことなく彼らの行く末を見届けることができるだろう。
結婚を目前にした女にとっては過去にケリをつけ、前を向くために必要な行為だったのかもしれないし、妻子に捨てられ足踏みを続ける元恋人を鼓舞するための行為だったのかもしれない。どちらにしろ、男にとっては救いであり、破滅への入り口でもあったように思う。未来を見据えていた女は徐々に過去へと引きずり込まれ、過去から抜け出せずにいた男は、ひとりでは抱えきれない罪を唯一分かち合える女をつかんで離さない。共依存にも近しい関係性は、次第に狂気じみたものさえ帯び始めていく。だが、終盤において罪を分かち合う術をほかに見いだすことで、その心はわずかかばかりの救済を得る。火口のスレスレに立っていたはずの2人の心は、平坦な道へと足を置く。そこに至るまでの濃密で濃厚な人間ドラマこそが、本作のだいごみである。
濃密なラブ・シーンのある作品の性質上、人によっては観ることを躊躇してしまうだろうが、理屈では推し量ることのできない人間の本質がこの作品には詰まっている。
『ゴールデン・リバー(2018)』は、第75回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞したジャック・オディアール監督作。ゴールドラッシュに沸く1851年のアメリカを舞台に、ジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックス演じる殺し屋兄弟が、黄金を探す画期的な方法を発見した化学者を始末するべく行方を追う西部劇サスペンス。それぞれの思惑が絡み合うことで生じる駆け引き・裏切り・殺し合いの果てに兄弟がたどる末路を通し、家族の絆や幸福の在り方を指し示す。
事前に知っておいていただきたいのだが、本作の原題は『The Sisters Brothers』。「シスターでブラザー?」と困惑してしまうかもしれないが、兄弟の名字がシスターズというだけのこと。邦題や日本版ポスターから、一攫千金を狙う男4人の物語だと誤解しがちだが、あくまでも兄弟の物語であり家族の話。そこさえ履き違えなければ、ヴェネチアで受賞するに至った理由を実感できるはず。「やった」「やられた」の連鎖から抜け出すことのできない兄弟の葛藤に寄り添うことだってできるはず。
欲に駆られ行動したはいいが、思うようにいかないことばかり。一度間違えないと、人はなかなか前には進めない。こだわりやしがらみから解き放たれてこそ、何が本当に価値あることなのか見極められるようになっていく。金を巡る泥沼の追走劇を経て兄弟は悟る。負の連鎖から抜け出し、真の幸福をつかむためには、その連鎖に巻き込まれるに至った元凶と向き合わねばならないのだと。
高望みしてしまうのが人間のさがだけど、えり好みしなければ、己の器をわきまえありのままでいられれば、今ここにある確かなものに気が付くことさえできたのなら、幸福に巡り合うチャンスはいくらでも残っている。ラスト・シーンを目にした時、その真意があなたにも伝わることだろう。
戦争・恋愛・生き方、タイプは違えど骨太な3作品とともに、6月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
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