2020年の‟父の日”は6月21日(毎年6月の第3日曜日)。家族にすら愛想を尽かされそうになるほどの「ダメ男」であるにもかかわらず、ボロボロになって奮闘する姿を見守るうちについつい応援したくなってしまう。そんな、愛すべき5人の父親たちを紹介しよう。
まずは内館牧子の同名小説を中田秀夫監督が映画化した『終わった人』(7月26日(日)朝4:45、WOWOWプライム)の主人公、田代壮介(舘ひろし)から。東大卒のエリート銀行マンでさえ、定年を迎えた途端に自分の居場所を失い、妻(黒木瞳)や娘(臼田あさ美)からどやされる……という悲惨な現実を知り、暗たんたる気持ちになるお父さんもいるかもしれない。
しかも、さらにそこから拍車が掛かり、カルチャーセンターの受付嬢(広末涼子)とのかすかな恋の予感に胸をときめかせるも、あれよあれよという間にとんでもない災難に巻き込まれていくさまが、コミカルかつ哀愁たっぷりにつづられるのだ。「あぶない刑事」のタカ&ユージの名コンビで一世を風靡した、ダンディーな“イケおじ”の代表ともいえる舘ひろしが、ままならぬ第二の人生にジタバタとあがく姿に「ギャップ萌え」してしまう人も多いはず。最後はホロリとした気分になれるのでご安心を!
仕事ひと筋に生きてきたにもかかわらず、定年するや「終わった人」と言われるのも皮肉だが、片やどんな仕事に就いても長続きせず、家族の信頼を失いそうになっている父親もいる。
真夜中の博物館を舞台にした人気シリーズ「ナイト ミュージアム」(6月26日(金)昼0:30、WOWOWシネマほか)の主人公ラリー(ベン・スティラー)も、愛する幼い息子にすら見限られ始めているダメダメな父親のひとり。別居中の妻の新恋人に息子が懐いていることに焦りを覚え、一念発起して自然史博物館の夜警の職にありつくが、なんとそこは夜な夜なティラノサウルスの全身骨格や剥製たちが一斉に動きだす、世にも奇妙な場所だった……!
息子の手前、今回ばかりは投げ出すわけにもいかなくなったラリーは、夜ごと暴れ回る展示物たちを必死で手なずけながら、かつて誰にも見せたことのないようなリーダーシップを発揮して、無理難題に立ち向かう。「いつか家族をアッと言わせたい!」とひそかな野望を抱いているお父さんも、スカッとした気分に浸れること請け合いだ。
愛する子どもとの約束を果たすべく「火事場の馬鹿力」を発揮するのは、ラリーばかりとは限らない。45歳で「戦歴49戦中13勝33敗3分け」という惨憺たる結果を残してきた崖っぷちの中年ボクサー、スティーヴ(マチュー・カソヴィッツ)も、「ピアノを習ってパリの学校に行きたい」という娘の夢をかなえたい一心で、誰もが敬遠する欧州チャンピオンのスパーリングパートナーになることを決意する。
たとえ親バカと言われようが、娘の才能を信じて伸ばしてやりたいと願うのが、夢を追い、勝負の世界の片隅で生きてきた男にできる、唯一の「父親らしい」振る舞いなのだ。何度たたかれても逃げずに立ち上がり、「負け犬」なりの美学を貫こうとするスティーヴの姿を前にしては、普段「負けっぱなし」のお父さんたちも、きっと胸をアツくするに違いない。
一方、会社員として地道に働いてはいるものの、日々の激務に追われるあまり、子育てはおろか、家のことはすべて妻に任せきりで、食器すらどこにあるのか分からない……というお父さんも世の中には少なくないだろう。
『パパは奮闘中!』(6月17日(水)夜7:15、WOWOWシネマ)の主人公オリヴィエ(ロマン・デュリス)も、そんな働き盛りの父親。オンライン倉庫の仕事と労働組合の活動で、寝る間もないほど働き通しだったある日、妻のローラが子どもを置いて突然姿を消したことから、不慣れな家事や育児でてんてこ舞いに。夕食代わりにシリアルを出しては、わが子に「これは朝ご飯として食べるものでしょ!」とツッコまれる始末。
そんな中、優しくしてくれた同僚に手を出し、手伝いにきてくれた妹にも八つ当たりしてしまうオリヴィエは、典型的なダメんずともいえる。だが、想像以上にしんどい局面に立たされながらも、孤軍奮闘する姿に、思わず手を差し伸べたくなってしまう。日頃、家族をないがしろにしている自覚のあるお父さん方は、オリヴィエのような事態に陥る前に、一度きちんと向き合うことをオススメする。
最後に、過労を通り越して心を病んでしまったお父さんが再生していく過程を追った作品も紹介しておこう。
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』(6月22日(月)夜6:45、WOWOWシネマ)の主人公ベルトラン(マチュー・アマルリック)は、2年前からうつ病を患い、会社を退職して家で引きこもりの生活を送る日々。子どもたちにもすっかり軽蔑され、義姉夫婦からも散々嫌みを言われ続けていたある日、地元の公営プールで男子のシンクロナイズドスイミング(現在の名称はアーティスティックスイミング)・チームのメンバー募集の広告を目にし、かすかな希望を胸に抱き、思い切って足を踏み入れる。だがそこで出会ったのは、怒りっぽいロランや、いまだにロック・ミュージシャンになる夢を捨てられずにいるシモンら、見るからにダメダメなメタボ体型の悩める中年オヤジたちばかりだった……。
サウナで愚痴をこぼしてばかりいたベルトランたちが、過酷な特訓を乗り越え「ひと花咲かせよう!」と、ガムシャラに突き進むさまは、涙なしには観られない。これまで見てきたどの父親よりもダメなオヤジたちが、全身全霊で頑張る姿に、必ずや勇気と希望をもらえるはずだ。
映画を通じて、「かなりなダメ男であるにもかかわらず、なぜか嫌いになれないお父さん」が世界各地に点在していることを知り、「うちのお父さんの方がまだマシだな」と見直してもらえるケースも、意外と多いのかもしれない。というわけで、これを読んでくださったお父さん以外の方々へ。せめて「父の日」くらいは、普段家で肩身が狭い思いをしているお父さんのことを気に掛け、いたわってあげてみてはいかがだろうか。
インタビュアー、ライター。「DVD&動画配信でーた」「キネマ旬報」「キネマ旬報NEXT」「nippon.com」などでインタビュー記事やレビューを執筆中。国内外の映画監督や役者が発する言葉に必死で耳を傾ける日々。
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