阿部寛の演じる“変人”は人間くさくて可愛らしい「TRICK」上田役で存在確立

2020/07/10 10:57 配信

ドラマ

「トリック」より阿部寛演じる上田次郎と仲間由紀恵演じる山田奈緒子 (C)テレビ朝日


7月7日にシリーズ20周年を迎えたドラマ「TRICK/トリック」(テレビ朝日系)。同シリーズへの出演でブレイクしたのが、上田次郎役の阿部寛だ。同作や「結婚できない男」シリーズ(フジテレビ系)の桑野信介役で“愛される変わり者”を演じ、唯一無二の強烈な存在感を発揮している。そんな阿部の魅力について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。

“自称”天才物理学者の残念イケメン・上田次郎は大人気キャラに


ミステリードラマのレジェンド「トリック」の20周年を記念して7月10日(金)、17(金)に地上波での傑作選放送が決まった。(ともに深夜2:50〜、テレビ朝日)

ドラマがはじまったのは20年前だが、2014年までシリーズが長期間続いた人気作。自称天才マジシャンの山田奈緒子(仲間由紀恵)と自称天才物理学者の上田次郎(阿部寛)がバディを組んでインチキなトリックを鮮やかに見破っていく。

14年もの間、連続ドラマ、スペシャルドラマ、スピンオフドラマ、映画など多くのシリーズを生んだ人気の秘密のひとつは山田と上田のキャラクターの魅力。なかでも、優秀な物理学者ながら人としては問題が多々ある上田はそれゆえのおもしろさや愛らしさが受けて、彼名義の著書も発売されるほど人気キャラに。

上田は、勉強はできるが、それ以外はコンプレックスだらけ。友達も恋人もいない(いまでいう“「逃げ恥」の平匡さん”タイプ)。でも自分の弱さをひた隠して虚栄心をひけらかす。空手を通信教育で習っていて実践力0など、いろいろ残念なところが、山田といると炙り出されて、とても楽しい漫才コンビのようなコンビネーションを繰り広げた。

ミステリードラマにもかかわらず、肝要の推理部分よりも上田と山田のかけあいが見どころなのが「トリック」の特性でもあった。

上田を演じた阿部は現在“イケメンだけど変わり者、という役をやらせたら右に出る者はいない”と誰もが思う俳優であり、その認識を全国区に広めた作品こそ「トリック」であった。そのイメージはのちの「結婚できない男」(2006年)「まだ結婚できない男」(2019年)でさらに盤石なものとなった。

いまでこそ“イケメンだけど変わり者”という二面性を華麗に操りながら演じる阿部寛であるが、デビュー時は「イケメン」の一面押し。190センチ近い高身長で、大学在学中にメンズノンノモデルとしてデビュー。しゅっとしたスタイルの良さで二枚目キャラを演じていた。

初期の代表作でよく取り上げられるのは映画「はいからさんが通る」(1987年)の少尉。少女漫画特有の理想の王子様キャラである。

その頃の爽やかな阿部の写真が「トリック」で登場したことがあった。“上田の若い頃の写真”という小ネタとして使用されたのである。

そのいかにもなイケメンイメージをぶち壊したのが、つかこうへい作、演出の舞台「熱海殺人事件モンテカルロイリュージョン」(1993年)。しゅっとした二枚目の仮面の下にたぎる熱情を爆発させ、阿部のエネルギーの強大さや豊かな表現力の可能性を感じさせた作品で、以後、阿部寛の演じる役柄は広がっていき、「トリック」の上田によって完成したといえるだろう。

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