阿部寛の演じる“変人”は人間くさくて可愛らしい「TRICK」上田役で存在確立

2020/07/10 10:57 配信

ドラマ

「まさかのトリック20周年」キャンペーン(C)テレビ朝日


“ギラギラしているのに草食系”というギャップ


「結婚できない男」の建築家・桑野は、仕事はできるし、上田と違って家事もできて、一見完璧な人物。だからこそ外面はひじょうに良好。ところがやっぱり内面は上田のようにコンプレックスを抱えていて、他者との本質的なコミュニケーションが円滑でなく、気難しさゆえに対人トラブルを起こしてしまう。そのためずっと独身を貫いてきた。家事もできるので困らないのである。こういうタイプは、今でいう“「逃げ恥」の平匡さん”である。上田も桑野も“平匡さん”の前身であると言っていいだろう。

上田や桑野が登場した2000年代前半はまだ、仕事ができてイケメンでモテるパーフェクトな男性がドラマのメインキャラに据えられていたが、上田や桑野登場以降、じょじょに、仕事ができてもイケメンでも、モテない人物がメインのドラマが増えていく。それはちょうど「草食系男子」というワードが流行してきた頃と合致していた。上田も桑野も平匡さんも皆、草食系男子の流れにいる。

いまや、多くの俳優がこの手のキャラを演じるようになったが、阿部寛の抜きん出た魅力は、一見、ギラギラしているにもかかわらず草食系、というギャップを表現できる点である。

そして彼の態度になんともいえない負け惜しみの美学みたいなものが滲むところが人間くさくて可愛らしく見えてしまう。見たまんまではなく、Aに見えてBだったというギャップの飛距離のスケールが、彼の身長以上に大きい。カラダは大きいのに気は小さい(阿部本人のことではありません。演じている役のことです)、この差がすこぶる面白い。

阿部寛はその一見ギラギラしたかっこいい雰囲気で、東野圭吾ミステリーの刑事・加賀恭一郎から、町工場から世界に羽ばたく製品を作り出す製造業社長(「下町ロケット」2018年)、ローマ人(「テルマエロマエ」2012年)、シェイクスピア劇の王様(「ヘンリー八世」2020年)まで演じることのできる稀有な俳優であるが、これほどまでに息の長い人気者になった秘密は、手が届かなそうな完璧さのなかの意外性とおかしな部分を見せたことであろう。(文=木俣冬)

地上波で傑作選放送


現在、「トリック」シリーズ20周年を記念して「#まさかのトリック20周年」と題したキャンペーンが展開されている。

7月10日(金)、17(金)の地上波での傑作選放送(ともに深夜2:50〜、テレビ朝日)もその一環。

動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」では、連続ドラマ3シーズンとスペシャルドラマ3作品、「警部補 矢部謙三」シリーズ3作品も完全配信されている他、2000年の初回放送からちょうど20年となる、7月7日夜11:09から「トリック劇場版」全4作品も登場し、すべてのトリックシリーズ計57話がコンプリート見放題配信に。ほか、プレゼンキャンペーンなども行われている。

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