「クリエイターズ・ファイル」#62 ベストセラー作家・阿久津しのぶ

2020/07/21 13:00 配信

芸能一般

阿久津氏の担当である豆板社の栗山大紀さんとは十年来の付き合いだ。気づけば4時間以上話し込むことも少なくない撮影=浅田政志/(c)クリエイターズ・ファイル


何を書こうかなって考えてる時が一番楽しくて好きだな


――厳しくも優しい阿久津氏の独自の視点・感覚はどのように磨かれてきたのか。

阿久津「たとえば、この庭に咲いている満開の紫陽花(あじさい)を見て綺麗だなって思うでしょう。僕はね咲いてる花なんて見ない。無視するね。古い表現だけど、ガンガンゴリゴリガングリムシムシなんですよ。だって、花はあざといでしょう。『この時期しか咲かないから見てくださいね』と言わんばかりに咲いてるのを見てると、どうして見なきゃいけないんだって、どうして僕が予定合わせなきゃいけないんだよって、そう思わないですか? 押し付けがましいのが僕は嫌いなんですよ。花は咲く前が一番美しい。小説もエッセイもそうだけど、何を書こうかなって考えてる時が一番楽しくて好きだな。もちろん書店に並んだら嬉しいし、感謝しなくてはいけない。でもね、書店に並んでる時は、もうガンガンゴリゴリドギツイですよ」

――ベストセラーを生み出し続ける阿久津氏の仕事術とは。

阿久津「僕の家には書斎はないんですよ。机に座ったらいかにも『書きなさい』と言われているような感覚。それが妙に嫌でね。僕は『やれ』と言われるとやれない男。編集者から締め切りだと言われると書きたくなくなるんですよ。なんだか押し付けられているようでしょう。僕を信じなさいよ、やるから。やらないわけがないだろう。近頃の編集者は僕がやらないとでも思っているのかね。やれと言うからやらないになる流れっていうのはある」

――自由に見えて不自由、不自由に見えて自由。それが阿久津流だ。

阿久津「現代は、社会の秩序とかマナーとかルールが多すぎるよね。地球の歴史でいうと始まりに近い方が楽だったろう。アウストラロピテクスとか北京原人、クロマニョン人やナウマン象、彼らは一番楽だったでしょう。一番甘かった。現代に比べると秩序やマナーは1万分の1ほどの少なさでしょう。けどね、その時代にも人をたたいたり、面倒なルールなんてのもあったでしょうね。彼らに比べたら便利な人生送っているんですから、それくらい耐えなさいよ。それが時代ですよ。各々が警察になる時代が来た、そう思うね。個人警察の時代でしょう」

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