広島・旧陸軍被服支廠解体案をめぐり戦争遺構の意義と保存の現実を見つめる

2020/07/30 20:00 配信

芸能一般

【写真を見る】爆風の威力を物語るゆがんだ鉄製の窓(C)広島ホームテレビ


「75年前を想像させる建物をいかに残すべきか、議論が深まるきっかけに」(山口D)


――「被爆遺構・戦争遺構の意義」について、番組はどのようなアプローチをなさるのでしょうか?

上重P:建物が当時どういった使われ方をしていて、原爆によってどんな運命をたどったかを知ることによって、その被爆建物が持つ意義を見いだせるのではないかと考えました。今回取り上げた被服支廠は、軍都広島を象徴する建物であり、被爆後は救護所として原爆の悲惨さを体験してきました。

番組では、戦中や被爆後の被服支廠の様子を知る人へのインタビューなどから建物の背景への理解を深めてもらえるようにしました。このほか、原爆ドームや平和公園内のレストハウスといった被爆建物についても触れ、被爆建物が現存していることの意味をあらためて考えました。

――取材、番組制作を通じて抱かれた思いをお聞かせください。

上重P:費用などを考えなければ、被服支廠を「全棟残す」ということが望ましいことは一致していると思います。ただ、財源の問題も合わせて考えなければ現実的ではないと感じました。

現地に行くと分かりますが、被服支廠4棟はかなり巨大な施設です。これだけの規模の建物を効果的に活用する方法を見つけ出すのは容易ではないと思います。

私たちが「残してほしい」と望むなら、将来を見据えてどう使っていくべきかも一緒に考えることが必要です。

今回、反発が起きたのは、行政の中だけで結論を出したからなのだと思います。行政側は議論をオープンにし、住民側は活用策について積極的に意見を出し、その上で建物をどうするべきかを判断する、といった手順を踏んでいく必要があるのだと思いました。

山口D:被服支廠は当時の姿を残す数少ない被爆建物の一つです。番組では特別な許可を得て建物内で撮影を行いました。20年以上使用されず今は何もない倉庫ですが、中に入れば75年前に何があったのかを自然と想像させられます。

現地で証言をしてくださった小笠原さんは倉庫に入ると手を合わせていました。建物には原爆の凄惨さを伝える力が確実にあると実感します。

しかし保存には多額の投資が必要となります。「どの程度の規模を残し、どう活用するのか」を住民も行政も、より積極的に議論がする必要があると感じました。平和のための遺産が、将来に負担となる遺産となってしまっては本末転倒です。

広島県が公表した解体案は見送りとなりましたが、多くの人が被服支廠の今後を考えるきっかけとなりました。この機会を逃さず、議論が深いものに進展してもらいたいと思います。

原爆投下された当時の様子を語る証言者(C)広島ホームテレビ


――最後に、番組を通じて訴えたいこと、全国の視聴者に伝えたいことをお聞かせください。

山口D:「遺構の保存」と「必要な費用」という課題は全国共通ではないでしょうか。まずは広島の実情を知っていただき、それぞれの地域に置き換えて考えてもらうきっかけになればと思っています。

上重P:広島に限らず、被爆遺構や戦争遺構は存在します。そうした遺構の活用について行政任せになっているケースが多いのではないでしょうか。

戦後75年、当時を知る人たちは少なくなっています。当時の記憶を風化させず、これからの世代に継承していくためにも、いま私たちが関心を持つことが大切だと思います。遺構の背景を知り、その意義を考えてみることは、自分から関心を持つことの一つの例になるのではないかと思います。

被服支廠の問題はまだ結論が出されていません。今後の活用策を探る議論の推移などについて引き続き、ディレクターとともに取材を続けていきたいと考えています。

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