パラカヌーの王者、カーティス・マグラス選手が放つ前向きな強さ

2020/08/11 12:00 配信

芸能一般

パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM アフガン帰り 不屈のカヌー王者:カーティス・マグラス(C)WOWOW

7月9日に「第10回 衛星放送協会 オリジナル番組アワード」の各部門最優秀賞が発表され、ドキュメンタリー部門では「パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM アフガン帰り 不屈のカヌー王者:カーティス・マグラス」(WOWOWプライム)が受賞した。

同番組は、WOWOWとIPC(国際パラリンピック委員会)の共同プロジェクトとして2016年にスタートした、東京パラリンピック開催を見据え世界最高峰のパラアスリートに迫る大型シリーズ。勝負の世界はもちろん、人生においても自信に満ちあふれる彼らが放つ「これが自分だ!=This is WHO I AM.」という輝きを描いたもの。

本エピソードでは、パラカヌーのカーティス・マグラス選手を取り上げる。かつてオーストラリア兵としてアフガニスタンに派遣され、地雷により両足を失ったカーティス選手は、退役後にカヌーと出合い、アスリートとしての才能を開花させ、2016年のリオパラリンピックで金メダルを獲得した。番組では、カーティス選手の壮絶な半生を振り返ると共に、日々のトレーニング風景、国際大会での映像などを交えながら、彼の生き方、考え方に迫っている。

カーティス選手が兵士となりアフガニスタンに派遣され、両足を失い、過酷なリハビリを経てアスリートとして第二の人生を歩み始めるまでを、本人や家族たちのインタビューと共に振り返る前半。そして、カヌーと出合い「バー」という種目で世界大会で優勝するも、リオパラリンピックで「バー」が実施競技から外され、急きょ「カヤック」での出場を目指して見事金メダルを獲得。東京パラリンピックでは、「バー」と「カヤック」の両種目で金メダルを目指す姿が描かれる後半、という構成となっているのだが、一貫して言えるのは、彼の、そして彼を支える人たちの“強さ”だ。

前半では、カーティス選手だけでなく、彼を支えた恋人の人間的な強さに圧倒される。地雷で脚を失い救助のヘリに運ばれながら、彼は仲間たちに向かって「次はパラリンピックに出てみせる」と発言した。一方、彼の負傷を聞いた恋人は、「何かをしていないと事故のことを考えてしまう」という理由から、「パラリンピックに出るとしたらどの障害クラスなのか?」「走る義足は?」「現在の(義足の)技術は?」などを、その日のうちに調べ始めたという。生死の狭間で、例え仲間に心配を掛けないためだとしても、そんな言葉を発せられるだろうか。また、最愛の人の不幸な出来事を知り、想像を絶するショックの中でこれほど前向きになれるだろうか。2人の常人離れした“強さ”は、まばゆさを感じるほどだ。

後半では、夢を実現させるために他の種目へと変更せざるを得なくなりながらも常に前を向いて進むカーティス選手の姿に、トップアスリートの強靭な精神力を垣間見ることができる。中でも印象的なのは、彼の「僕の人生は前に進み続けていて、何も心配はない。できなくなったことを考えるより、何ができるかが楽しみなんだ」という言葉だ。新型コロナウイルスの影響で新しい生活様式を余儀なくされた我々にとって、とてつもなく“強い”エールとして受け取れるのではないだろうか。

パラアスリートの“強さ”を通して、「できなくなったことを考えるより、何ができるか」を楽しめる“前向き”な姿勢のすばらしさを受け取ってもらいたい。

文=原田健