<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「育児放棄」【短期集中連載/第2回】

2020/08/31 17:30 配信

映画

映画『えんとつ町のプペル』(12月25日[金]公開予定)誕生の背景とそこに込めた想いを語る連載第2回


芸人、絵本作家ほか、ジャンルの垣根を飛び越えて活躍する西野亮廣。2016年に発表し45万部を超えるベストセラーとなっている絵本『えんとつ町のプペル』だが、実は映画化を前提として設計された一大プロジェクトだった。構想から約8年、今年12月の映画公開を目前に、制作の舞台裏と作品に込めた“想い”を語りつくします。第2回目は、仲間を得てついに絵本作家デビューを果たした西野亮廣が直面した壁、「作品の完成とはどの地点を指すのか?」という問題について、気づきと作り手(親)の覚悟を明かします。

映画『えんとつ町のプペル』ティザービジュアル(C)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会


たった一人で始めた絵本制作に仲間ができた


0.03ミリのボールペン一本で進める絵本制作は、想像していたよりも遥かに険しい道でした。自分で選んだ道なのに、遅々として進まない絵本制作に僕は苛立っていました。なんのことやら。

くわえて、その頃から世間の「西野叩き」が始まりました。今となっては考えられませんが、当時は、芸人の「副業」を皆が許さなかったのです。「迷走していらっしゃいますね」「アーティスト気取りですか?」といった嫌味が続々と耳に入ってきました。楽屋奥の物置スペースで誰にも迷惑がかからないように絵を描いてると、先輩芸人が次々とやってきて、僕を絵本制作から剥がそうとします。

「芸人がなんで絵本なんか描いとんねん。こっちに来いよ」

バッシングは日を増すごとに酷くなり、いろんな人が目の前から去っていきます。そんな中、絵本制作と向き合い続けていました。世界の誰一人として、「キングコング西野の絵本」なんて望んでいないのに。途中、何度か疑いました。

「僕の判断は正しかったのかな」

絵本制作をスタートさせて2年。処女作『Dr.インクの星空キネマ』は、まだ半分も完成していませんでした。それどころか、出版するアテもありません。番組のプロデューサーが、「出版社は決まっているのか?」と心配してくださって、僕は首根っこを掴まれる形で、六本木のレストランに向かいました。その席にいたのが、幻冬舎の舘野さんと袖山さん。番組プロデューサーが出版社との間を取り持ってくださったのです。

幻冬舎のお二人から、「西野さんは何をしたいのですか?」と訊かれたので、そこから2時間ほどかけて、僕が考えていることを全てお話しさせていただき、最後に、描きかけの絵を一枚お見せしました。

「出版できるかどうかもわからないのに、この絵本の制作にすでに2年も費やされたのですか?」と驚かれたことを覚えています。お二方とも赤ん坊を抱くように優しく僕の絵を扱ってくださいました。そして、舘野さんがバカなことを口にしました。

「西野さんが、他社で作品を発表したら僕は自殺します」

出版のプロとは思えない下手な口説き文句でしたが、これから共に苦労していくことを決定するには十分すぎるほど胸に刺さりました。皆の手前、「めちゃくちゃメンヘラじゃないですか」と笑っていましたが、本当は、見つけてもらえて嬉しかったです。その夜、一人で進めていた絵本制作に初めて仲間ができました。ようやく歯車が回り始めます。

僕の絵本の売り上げはいつも2万部程度


そこから2年間ほどの記憶はあまりありません。絵本作家に転身したことを言い訳にしたくなかったので、続けさせてもらっていたレギュラー番組は、これまで以上の熱量で向き合い、文句をつけられないだけの結果を残しました。漫才師としても全員を黙らせようと思って、『Mー1グランプリ』に出場しましたが、決勝戦で、敗者復活戦から上がってこられたサンドウィッチマンさんに逆転負けを喫しました。全てが思うようにはいきません。大会終了後、舞台袖で恥ずかしいぐらい泣きました。

大会の打ち上げに参加して、真夜中に帰宅。そこから、また0.03ミリのボールペンを握って、絵を描きました。「日本一の漫才師」の称号を目の前で掬い損ねた悔しさと、まるで終わりが見えない絵本制作に対するストレスがゴチャゴチャに入り混じったまま朝を迎え、そして次の日の仕事に向かいました。この時期、狂ったように働いたことだけは覚えています。ベッドで寝た記憶はあまりありません。

【画像を見る】幻冬舎の編集担当が 「こんな才能が眠っていたんだ!」と驚いたというデビュー作『Dr.インクの星空キネマ』の1カット『Dr.インクの星空キネマ』にしのあきひろ 絵と文 幻冬舎刊


そうして4年以上の月日を費やし、処女作『Dr.インクの星空キネマ』が完成しました。

子供の頃、毎夜、いろんな人が夢に出てきて、いろんな物語が展開されていくことが僕は不思議で仕方ありませんでした。日記すらまともに書けない僕が考えている物語とは到底思えなかったのです。『Dr.インクの星空キネマ』は、そんな子供時代の僕の疑問に宛てたアンサーブックで、「世界中の人が眠ったときに見る夢」の脚本を書いている大忙しの脚本家の物語です。

0.03ミリのボールペン一本で描かれた145ページの異様な絵本。我ながら、なかなか執念めいた作品で、世間に発表すれば大変な話題になると信じて疑っていませんでした。「これで、この4〜5年が報われる」と。

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