2019年の春、雑誌の仕事で鈴木さんを初めて撮影した。そのときの写真をご本人が気に入ってくださったことから、今回の写真集の撮影を担当することになった。
アイドルの写真集をまるまる1冊担当するのはとても久しぶりなので、タヒチ島でのロケ自体のテーマを決めることにした。
そこで考えたのは、チーム全体で一つの旅をしながら撮影を進めていこうということだ。ちょうど画家のポール・ゴーギャンのことを考えていたので、彼が晩年に過ごした場所と、そこに漂う過去の痕跡をみんなで訪ねながら、旅の中で起きた偶然を取り込んでみることを目指した。
やっと探し当てた場所は、今はただの空き地となって、マンゴーの木だけが風に揺れていた。今回のロケで見たものの中で最も心に残っているのは、この、かつてゴーギャンが過ごした場所に吹いていた穏やかな風の肌触りだ。それは眼前の時間のうちに過去が立ち上がってくるかのような経験だった。
旅の途中、私たちは幾度となく虹に遭遇した。写真を見返してみると、そのときに見た光の色彩と、旅の中での鈴木さんのさまざまな表情が重なる。
世界が大きく変わってしまった今、そのとき経験した穏やかな普通の時間がいかにかけがいのないものであったかを感じている。
この本を手に取ってくれた人が、鈴木さんとともに旅をしているような気持ちになってくれたらうれしく思います。
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