<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「鳴り止まないエンターテイメント」【短期集中連載/第9回】

2020/10/20 21:00 配信

映画

映画『えんとつ町のプペル』(12月25日[金]公開予定)誕生の背景とそこに込めた想いを語る連載第9回


芸人、絵本作家ほか、ジャンルの垣根を飛び越えて活躍する西野亮廣。2016年に発表し50万部を超えるベストセラーとなっている絵本『えんとつ町のプペル』だが、実は映画化を前提として設計された一大プロジェクトだった。構想から約8年、今年12月の映画公開を目前に、制作の舞台裏と作品に込めた“想い”を語りつくします。第9回目は、西野に「折り合いをつけない生き方」を示した人物であり、絵本には登場しなかった『えんとつ町のプペル』の真の主人公・ブルーノの声優を務める、あの大御所との奇跡のような夜を打ち明けます。

【画像を見る】映画『えんとつ町のプペル』より。希望の見えない今年だからこそ、「煙の向こうの星を探しに行く」この物語に勇気をもらえるはずだ


「絵本の映画化」は何故起きたのか?


「思いついてもらうことが大切だと思います」

ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のCDジャケットを手がけるイラストレーターの中村佑介さんからいただいた言葉を、今も大切にしています。「いつかCDジャケットを手がけたい」と思っていた(まだ世に出る前の)中村さんは、「今度のCDのジャケットは、このイラストレーターに描いてもらおう」と〝思いついてもらう為〟に、ひたすら正方形(CDジャケットの形)のイラストを描き続けたそうです。思いついてもらう為の「ヒント」を出し続けたそうです。

「あのラーメン屋に行こう」「あの映画を観に行こう」「あの人にお願いしよう」…たしかに仕事は〝思いついてもらわないと〟始まりません。そこで中村さんは、「偶然思いついてもらうことを待つのではなくて、思いついてもらうように誘導した方がいいのでは?」と考えました。なるほど、恐れ入ります。

絵本『えんとつ町のプペル』は、最初から映画化を目標にしていました。そもそも映画の脚本が絵本よりも先に書きあがっていたのですが、誰も知らない作品を観る為に映画館に足を運ぶ人がいるとは思えません。そこでストーリーを大幅にカットして、物語の本当の主人公(ブルーノ)を外し、作品の認知を獲得する為の「チラシ」として世に出したのが絵本『えんとつ町のプペル』です。以前、お話しさせていただきましたが、「チラシ」と言っても、そこに費やした時間は3年半。命をかけて作りました。

ただ、こちら側がいくら「映画化」を願ったところで、「『えんとつ町のプペル』を映画化しよう」と思いついてくれる人がいないと、大きな予算が必要となってくるアニメーション映画の話は前に進みません。そこで、絵本『えんとつ町のプペル』は、膨大な設定資料を作り、町は「地図」から作成し、視点(カメラの位置)を探り…まるで「映画を作るように」作りました。その結果、「なんだか映画みたいな絵本」が完成し、読者の方から「これ、映画化した方がいいんじゃないの?」という声をたくさん頂戴しました。まもなく業界関係者の方からも同じ声を頂戴し、映画化の話が本格的にスタートしました。絵本『えんとつ町のプペル』の映画化は、たまたま巡ってきた運命などではなく、こちらから迎えにいった未来です。それもこれも、中村佑介さんのおかげ。中村さん、ありがとうございます。好きです。

未来を迎えに行く


今日、映画『えんとつ町のプペル』の本予告(1分半のCM)と、声優陣が発表されました。ゴミ人間「プペル」役は窪田正孝さん。星を信じた少年「ルビッチ」役は芦田愛菜さん。「見上げることを忘れた町」で、それでも上を見続ける主人公の声を、「ただ、声が合っている」というだけ選んでしまうと、きっと全てが嘘臭くなってしまいます。皆から鼻で笑われてしまうような「星を見よう」という臭い台詞を堂々と言うには、役者さん自身がその類の強さと純粋さとしなやかさを持ち合わせている必要があると思い、窪田さんと芦田さんにお願いしました。劇中、「星なんてあるわけがない」「そんなものを信じてるのかよ」と嘲笑う町の人達に、少年・ルビッチが勇気を振り絞って言い返します。

過去に誰も演じたことのない「ゴミ人間」という、正解のない難役を務めるのは俳優の窪田正孝。ピュアで包容力溢れる演技は必見だ


『えんとつ町のプペル』はルビッチの成長の物語でもある。か弱い存在のルビッチが信じ続ける強さを身につける軌跡を、芦田愛菜が表現する


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