前作『STARTING OVER』に続き、今作も15曲という大ボリュームだ。
「ボリュームを多くしようとかは思ってないんですけど、シンガー・ソングライターって曲書いてなんぼってところもあって。僕は、すごくかしこまった7分の曲を作るよりは、2分の曲をたくさん書くってスタンスなんですね。2分のまま完成する曲もあれば、発展して4~5分になる曲もあって。がっつり聴いてもらう曲があったら、箸休め的なふざけた曲も入れたいっていう風にやっていくと、どんどん曲が増えていく。高橋優っていう人間のスタンス的にも、叫んでも叫んでも叫びたりないし、わめいても怒ってもまだまだ感情が出てくるっていうところがあって。だから15曲くらいになるのは割と自然なことだと思ってます」
キャリアが増えれば増えるほど、その渇望感は増しているように見える。
「これまで自分は、何もやり遂げたって気持ちがないんですよね。もちろんこうやって取材してもらったり、ライブでお客さんと会える時間は得も言われぬ幸せな時間なんですけど。『いや、まだまだだろ』って気持ちが大きくて。周囲を見渡すと、振り返り型の人間になっていく人や、過去の栄光で朝まで飲めちゃう人がどんどん増えていて。それはそれで良いと思うんですけど、僕の場合は、積み重ねてきたものの話をするよりは、今やこれからの自分を意識していたい。それは歌をきいてもらえると、出てるとは思うんですよね」
特に「RUN」と「LIFE」の2曲には、音楽活動の原動力がダイレクトに描かれているように聴こえる。
「この2曲に共通してるのは、音楽を辞めていってしまった人のことも見てるっていうか。別のことを初めて幸せになっている人はいいんだけど、『なりたい自分になれなかった』って決めつけちゃって、人生さえも投げ出してる人もいて。僕も、自分のことをかっこいいと思えない日なんていっぱいあるし、恥をぶらさげて生きてるような気持ちになる時だってある。でもそれってまだ伸びしろがあって、希望が残されているからなんじゃないかって思いたいんですよね。こんな自分でもこんなことができるって見せたら、自信のないような人たちも、『俺でもやれるんじゃねえか』って思ってもらえるんじゃないかって。逆境に立たされる時の方が、いろんな願いを込めやすいんです。『高橋優ってまだ活動してるの?』って思っている人もいるかもしれないけど、やってる本人にしか分からない喜びは間違いなくある。それは歌に限らず、全部のジャンルに用意されている気がするんですよ。諦める美学もあるけど、僕は歌うことだけはデビュー前から20年くらいやってきてるので、続ける良さも知ってる。そういう気持ちはこめました」
ラスト曲は、自身でラジオ番組も持ち、ラジオ・パーソナリティとしての想いが綴られたアルバムタイトル曲「PERSONALITY」。
「ラブソングが多いアルバムになってきたなと思ったときに、この曲には“最後の曲を君に捧げよう しみったれたラブソング”って歌詞があるし、締めくくりに相応しい言葉が並んでいる気がしたんですよね。ラジオのことを曲にしたのは、『壊れかけのRadio』とか『トランジスタ・ラジオ』とか、ラジオを受け取る側の曲が多いなと思ったことが大きくて。それで、ラジオを発信する側の曲を聴いてみたいなって思ったんです。今って誰でもインスタライブとかで発信できるじゃないですか。一般人と芸能人の垣根もなくなってきてる。誰でもバズればエンターテイナーみたいなところがあって。いろいろな意味でパーソナリティーの時代になってきてるし、発信する側の人の気持ちがもっと浸透していけばいいんじゃないかなって思って。あと、ラジオをやっている人もそれぞれの事情があって、みんながあなたと同じ人間なんだみたいな気持ちも込めて書きましたね」
取材・文=小松香里
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)