はじめてのおつかい“5歳3カ月説”の真相とは!?

2012/07/14 06:00 配信

バラエティー

名物の豆腐を買いに走る女の子。それを追うカメラマンの苦労や感動のエピソードを特別に取材した(C)NTV

人生初めてのお使いに挑戦する子供たちの奮闘振りをドキュメンタリータッチで描いた人気番組「はじめてのおつかい」(日本テレビ系)。番組スタートから22年目を迎えた今、番組を立ち上げた大内淳嗣総合演出に、番組の成り立ちから撮影の苦労、秘話を聞いた。番組のきっかけになったのは、「はじめてのおつかい」(筒井頼子著、林明子イラスト、福音館書店刊)という一冊の絵本だった。

「『この本で何か作ってみよう』という話になって。ちょうどカメラが小型化してきた頃で、それをたくさん使えば、絵本と同じような画が撮れるかなという発想からスタートしました。絵本は、今でもお母さんに番組の趣旨を説明するときに使っています」。

子供のおつかいを放送できるものに仕上げるまでの作業を“通訳”と表現する大内氏。行動が読めない子供の撮影は苦労が絶えなかったという。

「子供に対して演出はしてないんです。というよりできない。カメラに写っていることはすべて偶然です。例えば、ある子供がリュックからビニール袋を取り出して、その中に荷物を入れて。またリュックの中に戻してという作業を30分以上も繰り返している。現場で、大人たちはその子が何をやっているのか誰も分からない。帰ってきて撮影したものを見直して、子供たちの考えを“通訳”してあげる。ひとつのお使いにカメラを最高で15台くらい使っているんですが、それを丁寧に一コマずつ見直していると、子供の不可解な行動にちゃんと理由があることが見えてくるんです。先ほど例に挙げた子供の行動を〝通訳〟してあげると、子供は『軽い袋=ビニール袋に荷物を入れたら、荷物が軽くなるんじゃないか』と思って、その行動を繰り返していたんです。最初に子供が考えていることの仮説を立てて見直してみると、全体的につじつまが合うことが多い。この“通訳”という作業は時間がかかって、撮影から放送まで数年かかってしまうこともあります」。

1回のお使いの撮影時間は3時間半から中には、10時間以上かかるものもある。しかし、撮影の準備にはさらに時間をかけている。

「お母さんとの打ち合わせを開始するのが、本番の1カ月前くらい。それ以前だと、お母さんのテンションが持たなくなってくるんですね。打ち合わせでは、まずお母さんの覚悟を確認します。『お子さんの初めてのお使いは、テレビの企画とは関係なしでもやるんですね』と念を押して。『テレビに出たいとか出したい』というお宅は、まずその段階でお断りしています。危険なんです。撮影スタッフに見守られながら、おつかいを成功させて、翌日もおつかいを頼んだとする。調子づいた子供は、またおつかいに行くだろうけど、そのとき見守るスタッフはいません。スタッフがいなくても、おつかいをさせる覚悟がないと困るんです」

場合によっては、前日に撮影を取り止めるケースも。

「極端な話、危ないなと思ったら前日に『やりません』って断ることもあります。最後の意思確認です。そこで、お母さんが「分かりました。撮影がなくても子供を予定通りにおつかいに出します」と答えてくれると、『スケジュールが変わりました。明日、伺います』(笑)って対応を変えます。最後の最後まで覚悟を問いただすんです」。

打ち合わせの過程で母親にも変化があるという。

「お母さんによっては、最初の頃『ウチの子はできますから』って言ってるんだけど、だんだんナーバスになってきて、当日は真っ青になってる。前日眠れなくて、手にはメモがいっぱい。だから、子供が無事に帰ってきた姿を見て泣くんです。あの涙は子供が帰ってきた安堵と準備の1カ月の苦労の結果。『こんなに子供のことを考えたことない』って感想が多いです」。

これだけ手間のかかる作業を繰り返しても、放送できるだけの形になるものは少ない。

「実は放送されないほうが圧倒的に多いんですよ。1年間の撮影目標が、だいたい100人。放送まで持っていけるのは、10分の1でこの確率はずっと変わってない。だから、夏と正月の2回放送で勘弁してもらっている」。

もっと見たい視聴者からすれば残念だが、制作過程を聞いていると無理もない。番組を見ていて素朴に疑問に思うのが、撮影していることを子供に見つからないのかということ。カメラマンが変装するなど見つからない努力はしているらしいが…。

「実験の結果、5歳3カ月までは大丈夫。最初のころは6歳とかでもやってたんですが、その頃は家庭にカメラが浸透していなかった時だったので。5歳3カ月を越えた子をカメラマンが追うと、「まだ来る! 泥棒だ!!」とか言いながら、鬼ごっこになっちゃう。でも、5歳3カ月未満の子だとカメラの存在に気づいてるんだけど、自分が撮られていると思わないようです。普通だったら、『何のカメラ?』って追及するけどそれがない」。

カメラマンは、子供に見つからないということよりも重要な役割が要求されているという。

「現場で全体が把握しきれないということもあって、心の中でナレーションできる、“演出できるカメラマン”じゃないと撮れない。子供のしゃべっていることを聞いて、カメラの方向を変えられる耳のいいカメラマンにお願いしています」。

22年間の中では、不思議な偶然にも何度も遭遇した。

「雨の中、泣きながらおつかいに行った子供を撮影しているとき、不意に雨がやんで晴れ間に虹がかかったり。そういうときは、撮っているというより何かに撮らされているという気がします。“はじめてのおつかい”から数年後の子供の姿を紹介するために、あるお宅に連絡したんです。すると、お母さんがすでに亡くなっていて。『ちょうど明日、墓参りに行く』ということで、墓の前でその子に取材したんです。そしたら、蝶が飛んできて…」。

感動と笑いが盛りだくさんの「はじめてのおつかい 爆笑!夏の大冒険スペシャル」は、7月16日(月)の夜7時~(日本テレビは夜6時57分~)、日本テレビ系で放送される。