6月6日~8日に東京・池袋で開催された「池袋シネマチ祭」。その特別企画として6月7日、池袋HUMAXシネマズで細田守監督作品「おおかみこどもの雨と雪」('12年)、杉井ギサブロー監督作品「銀河鉄道の夜」('85年)の上映が行われ、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏を聞き手に迎えて両監督のスペシャルトークが実施された。その模様を伝える第1回。
■「情感」を見事に表現した「おおかみこどもの雨と雪」
――きょうは尊敬するお2人の監督にお話をうかがいたいと思います。まずこの3人の共通点として、文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門の審査員の経験者であるということがありますね。「グスコーブドリの伝記」('12年)と「おおかみこどもの雨と雪」が同時に受賞して、その時は杉井監督が途中まで一緒に審査員をやっていたのですが、途中から「グスコーブドリ―」が受賞有力候補となった時点で審査員を辞退されてしまったんです。一緒に審査員をしたかったのですが、心残りでした。そして「おおかみこども―」の感想を聞いていなかったんですね。なので、そのあたりのお話をぜひお願いできればと思うのですが。
杉井:「グスコーブドリ―」の方が少し早く公開しましたが、同じ年の夏に「おおかみこどもの雨と雪」を試写会で見せていただいて、感動して涙してしまいました。子供が病気になった時に、獣医と小児科とで迷って結局どちらにも行けないとかね。あれって、設定なんだけれどユーモアじゃないですか。物語の最後では、お母さんが自立して遠くに行ってしまった娘の方ではなく、狼として生きることを決めた子供の近い所で、あの家に1人残りながら見守るというのは非常に感動的ですよね。いろんなシーンで僕はウルウルときてしまいましたが、娘が自分の正体が狼であることを同級生の男の子に告白するところとかもやっぱりグッときてしまいましたね。
細田:杉井監督に目の前でコメントいただくというのが、光栄なんですけれども非常に気恥ずかしいものが…(笑)。
杉井:日本のアニメーションがついにここまで来られたと思いました。アニメーションってアクションは得意だけれど、キャラクターで情感を伝えることが果たしてできるのか、と。僕がアニメーションをやっていて、それはひとつテーマだったんですよ。細田監督はアニメーションの中で情感というものを、それはもう見事に伝えられていると思うんだよね。
――「サマーウォーズ」('09年)はアクション要素が強かったですが、それに続いた流れがあってこそなんでしょうか?
細田:「おおかみこども―」って、日本のアニメではやっていないような物語の設定ですよね。ひょっとしたら、世界のアニメの歴史の中でもやっていないかもしれない。しかも親子ものなのに、子供ではなく親側に視点があるというのも、きっとないだろうと思いました。今までないものをやろうと思ったのは、アニメーション映画の表現の可能性として、アニメーションという記号を使って表現していない人生のさまざまなものが、まだあるんじゃないかという思いがあったのと、どんどん子供が減っていくような時代の中で、子供側からのぞくだけじゃない世界が、これから僕らを待っている世界の中で必要になってくるんじゃないかという漠然とした予感のようなものがあったからです。こんな映画が他にないわけですから、やばいんじゃないかという気持ちもありましたが、でも作る必要性を感じていたんですよね。
杉井:細田監督はファミリーを描いていこうということではないんですか?
細田:そういうことではないですね。
杉井:「サマーウォーズ」なんかは田舎の大家族を描いていて。普通あんなに人数がいたら、何人かはその他大勢ということになってしまうけれど、本当に一人一人を見事に描き分けていましたよね。その後に「おおかみこどもの雨と雪」で、これもまた家族がテーマで。細田監督の中に「家族のありよう」というものがテーマとしてあるのかなと思っていたのですが。
細田:それはよく言われます。「家族というものに思い入れがあるんですか?」と。でも僕、「サマーウォーズ」を作るまでは親戚とあまり仲が良くなかったんですよ。さらに言うと、「おおかみこども―」を作るまでは「お母さん大好き」という子ではなかったんですよね。まさか自分が親戚とか母親を題材にした作品を映画で作るとは、夢にも思わなかった。逆に夢にも思わなかったからこそ作ったというのがあると思うんですよ。ちょうど「サマーウォーズ」を作っている最中に自分の母親が亡くなってしまって、現実の世界では関係性をうまく整理できないままお別れのときを迎えてしまったんですね。「サマーウォーズ」のダビングの時だから、4日ぐらい田舎に帰ってまた作業のために戻ってきたりして。だからそれを振り返ってみて、なんとかしなきゃいけないという思いが個人的にあったのかもしれません。
――(2)に続く
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