実力派・個性派俳優たちの“連ドラ初主演”作品が目立つ今期ドラマ。その中で滝藤賢一が連ドラ初主演を務めるドラマ「俺のダンディズム」(テレビ東京系)は、さえないサラリーマン・段田一郎がダンディーな男になるべくダンディーアイテムを買いそろえていくというコメディー仕立ての作品で、毎週「手帳」や「スーツ」などのテーマに沿ったうんちくの数々や、滝藤の“突き抜けた”怪演により異彩を放つ。
7月2日(水)に放送される最終話に壇蜜のゲスト出演が決定し話題を集める中、本作を企画した濱谷晃一プロデューサーに作品や滝藤のキャスティングにかけた思い、滝藤の演技のすごさなど作品の気になる裏側についてお聞きした。
■依頼から18時間後に出演を承諾!?
――まず、「俺のダンディズム」が立ち上がった経緯を教えてください。
まず、放送する枠が経済報道番組の「ワールドビジネスサテライト」の後ということで、この枠ではサラリーマンに向けた、テレビ東京らしい、ちょっと変わった番組をやろうという考えがありました。
その中で“ドラマの中に情報性を入れる”という方向性があって、「孤独のグルメ」のヒット以来グルメドラマが増えたので、違うテーマはないかなと思ったときに、サラリーマンのためのアイテムを紹介するのはどうかな、という発想から「俺のダンディズム」という企画が立ち上がりました。
――なるほど。ドラマで男性向けアイテムを紹介する、という着想からだったんですね。「ダンディー」という言葉はどこから来たんですか?
ドラマの精神性というか、目指す方向性を一言で表す言葉を入れたかったんです。でも「俺のおしゃれ」だと、内面の部分までは表現できないと思うんですよ。今どき使わない「ダンディズム」という言葉に執着する男というのは滑稽でコミカルに描けそうだし、背伸びをしている姿勢は共感してもらえるのではという思いもありました。
―――そこからストーリーも組み上がっていって。
アイテム紹介はもちろん丁寧にしますが、「ダンディーから程遠い人がだんだんとダンディーになっていく」というストーリーを背骨にしたかった。だから段田は、ダンディーという言葉から思い浮かぶ真逆の人物像にしました。
――その中で、滝藤さんを段田に起用した理由は?
段田は何事に対しても一生懸命でささいなことにも一喜一憂する。さらに、よれよれの服でダサいおじさんなんだけど、チャーミングな部分もある…そんな皆に共感される小市民を演じ切れる人は誰だろう、と考えたときに滝藤さんだなと思って。滝藤さんで段田一郎を行こうと決めてから、段田一郎のイメージがより明確になっていきました。
――滝藤さん側の最初の反応はいかがでしたか?
それがですね、依頼書を出して18時間後ぐらいには事務所から「出ます」という返事が来ましたね(笑)。僕としてはけっこう受けてもらえるか不安なところはあったんですけど、ああ良かったと思いました。送った脚本や段田一郎のキャラクターをとてもご本人が気に入ってくれたみたいです。
■振付師、滝藤賢一
――濱谷さんご自身は、どの作品から役者・滝藤賢一を意識されたんですか?
映画の「クライマーズ・ハイ」('08年)ですね(新聞記者・神沢周作役)。あの、だんだん追い込まれていく感じがすごいなと思いました。眼力も半端じゃないですし。「半沢直樹」('13年)の近藤も「クライマーズ・ハイ」の神沢の延長線上にあると思うんですけど、それから滝藤さんが出ている作品を見ると、滝藤さんがとても気になるようにはなりました。
滝藤さんは「真面目で不器用がゆえに、いろいろな事情に巻き込まれ、精神的に追い詰められていく人」を演じさせたら世界一うまいと思います。映画の「許されざる者」('13年)も最初は明るい記者だったのに、最後は常軌を逸してしまい…“滝藤芝居”の真骨頂という感じでした。
――段田は今期のドラマの中全体でも特に突き抜けたキャラクターですね。
いや、僕も当初はこんなに突き抜けるとは思いませんでしたよ。最初のうちは撮影を見ていて「この人、いったい何をし出すんだろう」とドキドキしてしまうくらいで。
――ははは。
段田がアイテムに対してオーバーリアクションすることはもちろん脚本にも書いてあるんですけど、滝藤さんはプラスアルファの“動き”を自分で考えて、突き詰めるんですよ。しかも回を追うごとにエスカレートしていく。まあ、2話くらいから尋常なじゃいくらい動きまくっています。
――あの動きは滝藤さん発のものだったんですね。
はい。しかもあんなにキレキレに動くと思わなかったです。ネットに「滝藤さんは漫画の『ミスター味っ子』みたいなリアクションするね」と書かれているのを見て、確かにそうかもと思いました。
――「ミスター味っ子」! 料理がおいしかった感動で飛んだりしていますからね。
そうですね。あと、滝藤さんはサービス精神が旺盛なんです。例えば動きがいいねってことで第2話以降、段田さんの動きが急激に増えていくんですけど、その動きひとつとっても、毎回僕らの予測と全然違うアプローチで。しかも、僕らが「こういうふうにしますか?」と提案する動きっていうのは、滝藤さん以外の役者もできる動きなんですけど、滝藤さんは自分にしかできない動きを考えて本番でぶつけてくるんですよ。
――具体的に滝藤さんはどんな動きをぶつけてきたんですか?
初回で、どの腕時計を買うか選ぶときに、一番高価な「パテック・フィリップ」におののくという演技で「パテック・フィリップ閣下~!」っていきなり土下座したんですよ。そこで「時計に対して土下座するんだ…」と驚きました。段田の顔芸を超えた“全身芸”が生まれた瞬間でした。だから「俺のダンディズム」の滝藤さんのリアクションは、演技というより“振り付け”に近いかもしれないです。
――もうパントマイムの域ですね。
僕、ドラマが始まるとき滝藤さんに「この作品では滝藤さんをウディ・アレンみたいな人にしたい」って言っていたんですよ。でも出来上がったのは、どちらかというとMr.ビーンだなと(笑)。想像していた何倍も突き抜けていて、面白かったですね。
(後編へ)
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