5月15日より、東京・新宿高島屋にて開催中の「Music Jacket Gallery 2015」。その一環として、「ミュージックジャケットの魅力を語る!」と題したトークショーが5月16日に開催され、アートディレクターの信藤三雄、ブロードキャスターのピーター・バラカンが登壇した。
「Music Jacket Gallery 2015」は、60年代から現在までの日本のジャケットデザイナーに焦点を当て、クリエーティブな視点で音楽パッケージを紹介。
さらに、普段見ることができないCDとアナログレコードの製造過程の解説や、手書きタイポグラフィーと邦題ネーミングが生み出す世界観が魅力の洋楽レコード国内盤のジャケット/オビ、豪華・特殊仕様のパッケージなど、さまざまなミュージックジャケットが一挙に展示されている。
この日登場した信藤は、これまで松任谷由実やMr.Children、宇多田ヒカルなど、さまざまなアーティストのレコード/CDジャケットのデザインを手掛け、その総数は1000枚以上にのぼる日本屈指のアートディレクター。
さらにはフリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイヴといったアーティストたちのビジュアルイメージを形作る上でも大きな役割を果たし、後に「渋谷系」と呼ばれたムーブメントに大きな影響を与えた。
トークショー冒頭、レコードジャケットのデザインだけでなく、ミュージックビデオ(以下MV)などの映像作品も手掛ける信藤が、バラカンの担当していた音楽番組「ザ・ポッパーズMTV」('84~'87年、TBS系)を毎週欠かさず見ていたことを告白。
熱心に見ていたこともあってか、信藤が「MVっていうと、僕の中で『ポッパーズMTV』である種止まっちゃってるんですよ」と語れば、バラカンも「番組をやっていた頃は、毎週毎週ありとあらゆるものを全部見るようにしていたんですけど、番組が終わってしまうとみる必要が無くなるから、意外に…」と、お互い90年代以降のMVには疎いことを明かしていた。
その後、バラカンと信藤は、それぞれ持参したお気に入りのレコードジャケットを紹介。それらにまつわる思い出や、ポイントなどについても語り合った。
「すごく適当に、家の玄関の近くに置いてあったものを拾っただけなんですけど…」というバラカンが最初に選んだのは、ことしのレコードストアデイに行って「持っていたんですけど、モノラル(録音盤)が欲しくて」購入したという、The Doors「Strange Days」('67年)。
バラカンは「これは伝説のジャケットなので、見たことある方も多いと思います。デビューアルバムは本人たちの顔が出ていたんですけど、2作目は彼らが『自分たちの顔を出したくない』と言ったそうで。そんな時にレコード会社のスタッフが、偶然このジャケットに映っている大道芸人たちを見つけて…という、出来過ぎた話です」と、このジャケット誕生にまつわる裏話を披露した。
このジャケットには信藤も思い入れがあったようで、「僕はピチカート・ファイブ(のジャケット撮影)で、パリの街角でこれをやりました(笑)」とインスパイアされたことを打ち明けた。
そんな信藤は、Thomas Dolby(トーマス・ドルビー)の「Aliens Ate My Buick」('88年)をまずチョイス。「まあ、B級映画を模したイナタいデザインですけど、音自体もいいんですよね」とその魅力を説明。
さらに「トーマス・ドルビーは坂本(龍一)さんともやってますよね?」という信藤に、司会者から「『Field Work』ですね」と補足が入る。
するとバラカンは「そうだ、僕が覚えてなくちゃいけないヤツだ…。その当時、僕はYMOの事務所の社員だったから(笑)。その辺の連絡業務は僕がやってたはずです(笑)」と驚きの告白。思わぬ形で話が広がっていった。
その後、Archie Bell & Drellsの「Tighten Up」('68年)を挙げた信藤は「YMOが(表題曲を)カバーしたちょっと前くらいに、僕はスクーターズってバンドを始めて。その時にこの曲がやりたくて、そのバンドを作ったような感じなんです」と、そのアルバムの思い出を明かす。
さらに、「この、文字がビタ~ッと組んである感じがものすごい気持ちいい」(信藤)とデザイナーらしい視点で魅力を語ると、ピーターも「フォントとか文字の大きさにしてもそうだし、全部小文字を使ってることとかね。僕もLittle Feetの影響で、自分の名刺でも、名前とか全部小文字でずっとやってるんですよ」と、こだわりの一端を口にした。
観客との質疑応答になり、Mr.Childrenのジャケットにまつわる思い出を聞かれた信藤は「何となく、桜井(和寿)君がエコロジカルなことに興味を持ちだした時代で。地球を持続可能な社会にしなきゃいけないみたいな意志が芽生えてきた時期だったんです。そんな彼の思いみたいなものを形にした感じかな」と答えた。
続けてバラカンから「CDの大きさでデザインすると、LPと同じインパクトを持たせるのって大変ですよね」と尋ねられると、信藤は「大変ですね。こんなこと言っちゃいけないんだけど、もうCDのジャケットデザインが難しすぎると思います」とぶっちゃけ発言。
それに対しバラカンは「最近CDすら買う人がどんどん減ってるから、音楽をただダウンロードして聴くだけの時代になってしまったら、デザインはどうなるんだって思っちゃう。それはすごく寂しい。物にこだわるっていうのは、必ずしもいいことかは分からないんだけど、少なくともLPって、聴きながらこの大きさのアートワークを楽しむっていうのがあるから、やっぱりすごくいい」と、あらためてレコードジャケットの魅力を力説。
信藤も「もうCDが手元にいっぱいあって、引っ越しするたびにどうしようと思ってるんです。でもCDは捨てられるっていうか、売っちゃえるんだけど、アナログは捨てられないんだよね(笑)。やっぱりこのアナログのジャケットの魅力っていうのは、かけがえのないものなんですよね」と同調していた。
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