「魔笛」演出に懸ける宮本亜門の熱い想い

2015/06/26 18:10 配信

音楽

「魔笛」の公演についての想いを語る宮本亜門クラシカ・音楽人<びと>「宮本亜門 ヨーロッパで挑んだモーツァルト」 (c)CLASSICA JAPAN/Rikimaru Hotta

東京二期会オペラ劇場の7月公演「魔笛」の演出を手掛ける宮本亜門。その宮本が東京での公演に先駆け、オーストリア公演での演出を担当した時の様子を語ってくれた。

「オーストリア公演で『魔笛』の演出を手掛けることになるきっかけは、『フィガロの結婚』の再々演の時に、指揮者であるデニス・ラッセル・デイヴィスさんに演出をしないかと持ちかけられたから。てっきり『フィリップ・グラス』のオペラをやるのかと思ったら、『魔笛』と聞いて余りの驚きにすぐお断りしました。というのは僕はあまりにも『魔笛』が好き過ぎるし、『魔笛』の故郷オーストリアで初演をすることは、さすがにハードルが高すぎると」

「それを引き受けることにしたのは、周りから“こんなチャンスはない。日本人がヨーロッパで演出する機会はほとんおないだろう”と言われたことと、自分も勉強になるだろうと思った”からです。本場のオーストリアでやるということは恐れるというより、まず体験としてイチかバチかやるべきじゃないかと思ったんです」

「『魔笛』はいつかやりたいと思っていたが、まさかこんなに早くやることになるとは思っていなかった。『フィガロの結婚』を彼が指揮していた時に思われたのか、「演出の仕方が人間の心情を細かく丁寧に描いている。亜門らしく、細かい人間の感情をそのまま『魔笛』にすればよいと言ってくださった」

「公演で訪れたオーストリアのリンツという街はリンツァートルテというケーキが有名な愛らしいところ。王道のウィーンに対しての変化するリンツというキャッチフレーズのもと、大胆に、今までにない『魔笛』をやってくれというオーダーが最初からありました。実際に現地に行ってみたら、オーストリアの方は歌もセリフも全部覚えていて。何十回も見たり演じたりして、『魔笛』は見事に生活の中に入っているんですね(笑)」

「リンツの歌劇場は日本人にとっても歴史が深いところで『金閣寺』をオペラ化した黛敏郎さんが『古事記』を初演した場所でもあります『古事記』に出演された日本人のコーラスの方がいらっしゃってとても仕事しやすかったことは事実です。初顔合わせの時“テレビゲームの中に家族が入っていく”という設定を説明したら、スタッフ・歌手、ほとんど全員が引いたのです。ドン引きです。これはまずいぞと。“いったい何を考えているんだこの演出家は”という様子を見て冷や汗が出て“失敗するかも”という雰囲気が部屋を包みました」とその時のことを思い出す。

「新しい大胆なことをやってほしいと言われたのに」と悩み、その後私はホテルに帰ってネットで飛行機の帰る便を探しました。ここで逃げてしまおうかと思うほど」だったそうだ。

冷静になり、ホテルでもう一度モーツァルトの音楽に集中して耳を傾けたら、そのあまりの愛おしさに涙が出て。モーツァルトならではの人類愛に心が響いたのです。考えすぎずに自分なりにモーツァルトに愛情を注ごうと思い、結局は自分の可能性を自分で終わらせたくなくて稽古場に行きました。そうしたら数日後、稽古場が段々変わってきたという。ただ無心にモーツァルトの素晴らしさを語り、演出していたら、「最近、難しくこねくり回す演出が多すぎるけれど、モーツァルトが芝居小屋で音楽劇の形で見せたかったのは、この楽しさを観客に味わわせて、人間讃歌をしたからではないか」とスタッフが語ってくれたと稽古を始めたときの様子を語った。

「僕が行く前に上演していた『魔笛』がおそろしく暗かったそうで、これでは家族に見せられないと言われていたそうです。そういう意味ではちょうどよい流れの時にお話をいただいたのはあったと思います。オペラというのは次々といろんな形で見せていかないと、観客のみなさんは来てくれないという状況になっていたようです」

「時間を要したのは台本の作成。“オリジナルの台本を使わないでくれ”というオーダーがあったのです。ただオリジナルの台本に数か所、誰もが知っている人気の笑える台詞が入っている、それは残してほしい。また、全体に筋が流れるようにして、なるべく短い台詞で音楽を中心にと。これらの条件全てを満たすには当然時間がかかります。英語で語り合い、かれこれ一ヶ月かかりました」

リンツでの公演を経て今回の東京公演も変わってくる?との質問には、

「むしろ東京公演の方が変わってほしくないというか、元の姿をそのまま見たいという方がいらっしゃるかなと。僕の演出は受け入れてもらえるかな?」と思案している様子をうかがわせてくれた。

7月の東京公演ではどんな「魔笛」を見せてくれるのか今から楽しみだ。なお、この時のインタビューの様子は、クラシカ・ジャパンの番組「クラシカ・音楽人<びと>『宮本亜門 ヨーロッパで挑んだモーツァルト』で放送されるので、こちらも要チェック。