古今東西の名著を紹介する「100分de名著」(NHK Eテレ)のMC・伊集院光にインタビュー。番組で数多くの名著に接してきた伊集院が“名著”を熱く語る。
――最初に番組出演の話が来た時はどう思いましたか?
最初に「小説を読む習慣があまりないので、分からない立場からしかできません、そういう立場でよろしければぜひお願いします」とスタッフに伝えたら、スタッフも「まったく読まずにお願いします」と言ってきたので「それならば」という感じでしたね。
なので、読まずに収録するので、打ち合わせの段階や第一夜の時点ですごく読みたいと思ったりすることもあるんです。でも、『読まない』というルールがあるので逆に困るという(笑)。
収録が終わった後すぐに読むのがほとんどですね。それでも、名著として取り上げられている作品はベストセラー中のベストセラーなので、何かしらの知識はあるもので。例えば「フランケンシュタイン」なら、映画も見ているし、漫画やアニメでも取り上げられていて『知ってはいる』はずなんです。
でも「フランケンシュタインが怪物の名前ではなく作った博士の名前だった」なんて驚きで始まり、ましてや彼が流ちょうにしゃべるということすらアニメの影響で勘違いしていたというのが恥ずかしくもあり、それを知ることが快感だったりもします。
――番組では視聴者にどのように伝えようと心掛けていますか?
知ったかぶりをしないことですね。このことはみんな知っている周知の事実なんだろうな…と思いながらも、僕が知らないことは勇気を持って質問するということを心掛けています。
“うろ覚えだけど知っていた”という視聴者が“伊集院がなぞってくれたから良く分かった”と思ってくれたらそれでいいし、万が一僕と同じくらい分からない人がいて「そうなの!?」と僕と同様に驚いてくれたらすごくうれしいいです。
自分が高校を辞めた理由のひとつに、これはみんな分かっていることなんだからということで置いていかれてしまったということもあるので、なるべく質問していこうと思いってます。
番組の中でする俗っぽい例え話も、一人でもしっくりきてくれる人がいれば本望なんです。分からない人はテレビのスイッチを切ってしまうと思うんですよ。“分かってるよそんなの!”って人はもともとその小説が好きな人だろうから、我慢してくれるはず。少しでも多くの人に見てもらいたいと考えて、この自分の立場を続けていこうと思います。
――番組で取り上げた名著で印象に残っているのは?
カフカの「変身」ですかね。以前、流し読みしたことがあって、すごくシュールな作品だと理解していたんですけど、この番組で取り上げた時には「僕が高校時代に学校に行かなくなった理由ってこんな感じだった!」と、すごく具体的に結びつく感じがしました。
自分は割と勉強はできるつもりでいたし、そこそこ優等生のつもりでいたんですけど、ある日突然学校に行けなくなった気持ちがこんな感じだと思い“目からうろこ”でした。
あと「ハムレット」の回で講師の河合祥一郎先生が僕の解釈を面白いと言ってくれて、帰りがけにスタッフに「きょうの伊集院さんの話で論文1本書けますよ」と言ってくれたのがうれしかったですね。
「ブッダ 最期のことば」の回の佐々木閑先生も良かったですね。宗教家の人にお話を聞くと「ブッダはこう言った」ということになるんですけど、佐々木先生は宗教家ではないので、「ブッダがこう言ったとされている」と言ってくれる。これなら僕にも疑問をはさむ余地がある。足腰の強い先生はそこがしっかりしていると思います。
――伊集院さんが番組で取り上げてほしいと思う作品はありますか?
自分からリクエストを言うと、この番組の自分の立ち位置からするとちょっと違うよねという感じはあります。47という年齢と何にでも興味を持っていろんなことをするせいもあって、今の自分が面白いと思うことは“能動的にではなくすること”なんですね。せざるを得ないことや誰かが持ってきてくれたことにしか発見はないと今の自分は思っているんです。自分が凝り性なせいもあって自分の興味ある分野はある程度探り尽くしているので、猛烈な喜びに出会うことは少ないんです。
でも、人の提示したこと、もっといえば嫌いなことをやることで新しい喜びに出合えるんですよ。スタッフが選んでくれたものの中に僕を放り込んでくれた時の方が喜びが多いから、それが一番いいんです。
――10代の若者に読んでもほしい名著をあげるとしたら?
僕の10代のような人生を送っている人は少ないと思いますけど、カフカの「変身」を薦めたいですね。今の時点で分からないと思うことも含めて読んでおくといいと思います。
名著はだいたいそうなんですよ。早く読んでおいて“分からない”という経験をしておいた方がいいです。ハードルが高いと思って読まなかった作品がいっぱいあるけど、そうじゃなくて読んで難しい、チンプンカンプンだと思ったことが後々効いてくるということが絶対にあると思います。
きょう明日発売される名著も数多くあるでしょうけど、それはまだ淘汰されていく可能性もあるでしょう。けど、すでに100年、400年読み継がれた作品は、その心配も少ないと思います。
自分も「変身」を10代の頃に読んで奇妙な話としか思えなくて、その時点での自分のことを言っているとは全く思えなかったんです。でも、今読み返してあの頃の自分のこと以外考えられないと思っている自分がとても面白い。年齢、環境、立場とかで感じ方が違ってきますよね。
――番組の見どころをお願いします。
番組的には、本当に名著は数多くあって、まだまだ読んでないものがたくさんあるのでそれを感じてほしいというド正面のものがあると思うんですけど、僕は裏テーマとして“知と無知のぶつかりあい”をあげたいですね。
その本に対して無知な僕が、そのジャンルの専門家である先生に対して、普通に聞いたら怒られそうなレベルのことを、かなり聞いていますが、その時の先生の見事な切り返しが面白いです。もともと予定していた進行なんて関係ないところで盛り上がり、進行役の武内陶子アナをものすごく困らせています。知と無知のぶつかりあいで生まれる化学反応を見てほしいです。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)