‘12年にNHK BSプレミアムで放送された時代劇「薄桜記」がCS放送の時代劇専門チャンネルで、CS局としては初の放送が8月17日(月)からスタートする。片腕の剣豪・丹下典膳役(たんげてんぜん)はこれまでにも市川雷蔵ら大物俳優が演じてきたが、本作の典膳役は、今や時代劇の顔ともなった俳優の山本耕史。山本はインタビューで、撮影時の工夫や時代劇への思い入れを語った。
――テレビ放送当時も「片腕での殺陣」が話題になりましたが、どのような工夫をされていたのですか?
まず抜刀はできても納刀ができない、というところがあったりしたので、鞘に三本ほど溝を付けてもらってそれをなぞって納刀できるように、というのがありました。あとは常に左腕を衣装の中に隠している状態ですので、正面から撮るときは背面に、後ろから撮るときは腹部に、と場面によって腕を納める場所を使い分けていました。撮影の後半にはだいぶ慣れましたけど、当初はやはり腕が常に関節を極められている状態なので体さばきでもバランスを崩したりと大変でした。
――丹下典膳という男の人生は、現代人からすると壮絶なものがありますよね
あの時代には典膳のような境遇に置かれた人もいたんじゃないでしょうか。剣の達人ではありながら片腕を失い、普通なら剣を振ることさえも難しいはずなのに、それをすさまじい努力と工夫で乗り越えるという。そうやって想像するだけでも、きっとすごい時代だったんだろうなと思います。
――理不尽な目にあっても、典膳にはどこか爽やかな印象を受けました。それはやはり山本さんだからこそだと思います
いやいや(笑)。フィクションではありますが、どんな敵が来ても片腕で倒してしまう剣の腕と、本当に過酷な人生でも終始素敵な人柄で、演じていても「こういうふうに生きていけたら格好良いだろうな」という思いを寄せられる役でした。これまで演じてきた他の役と比べて、典膳という男は非常にかたくなで、今の時代では面倒くさい人というか、もう少し臨機応変に生きていけなかったのかなとも思いますが、そこがこの「薄桜記」の魅力でもあると思うんです。
――市川雷蔵さんなど、過去に典膳を演じた方々は意識されたのでしょうか?
過去の作品は一切見ていませんでした。市川雷蔵さんらを見てそれに引っ張られてしまうよりは、今の時代に、自分が感じた丹下典膳をやるしかないなと思っていました。これはどの作品に出演する際にも同じことです。
――ご自身の俳優人生において、時代劇とはどういった位置付けのものなのでしょうか?
当初はあまり思い入れはありませんでした。若い頃は全く見なかったし、父親が見ているのを「何が面白いんだろう」と思っていたくらいでしたが、自分が時代劇というものを体験してみて、例えばてこずっていた所作が初めて自分の中で慣れ親しんだものになったときに、その先が無限に広がっているように思えたんです。昔に比べて時代劇そのものがかなり少なくなってしまっているという中で、時代劇をやれる俳優として名前を挙げてもらえるということはとても幸せなことだと思います。
そして時代劇の方が、現代劇よりもある意味で嘘がつきやすいというか、想像力を膨らませることができるんです。その時代の本当のことは誰にもわからないので、一見制約が多くて堅苦しいイメージがありますが、時代劇ほど自由な表現ができる場所はない。何でもありなんです。僕が誤解していた時代劇の魅力のひとつですね。
現代劇には現代劇の良さがありますけど、今でもこうして当時の文化を時代劇として上演し続けているということは、やはり日本人としての志というか、魂のようなものが受け継がれているんだと思います。日本人が誇るべきものとして、海外にも発信していけるエネルギーをもった世界だと思います。
10代、20代の若い俳優も、一度と言わずにぜひ何度でも時代劇に出演していって欲しいですね。
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