自分が見ている景色が全てとは限らないし、同じ景色を見ていたとしても同じように見えているとは限らない。11月20日(金)放送の金曜ロードSHOW!特別ドラマ企画「視覚探偵 日暮旅人」(日本テレビ系)は、“五感”のうち、視覚以外を失った松坂桃李扮(ふん)する探偵・日暮旅人(ひぐらし・たびと)の話だ。
同作は累計45万部を突破した山口幸三郎の「探偵・日暮旅人」シリーズを独特の世界観で数々のヒット作のメガホンを執ってきた鬼才・堤幸彦が映像化したもの。松坂の他、多部未華子、濱田岳、住田萌乃、北大路欣也らが出演している。
先日、日本テレビで行われた同作の事前試写会に参加して一足先に視聴し、見どころを紹介する。
主人公の日暮は、他の感覚がない分、視覚が研ぎ澄まされており、目で人々の感情や言葉を読み取る能力を持つ…という事前情報だけを頼りに、試写会に臨んでみた。
というのも、目で見える情報が全てという主人公にならって、あえて事前情報を入れないで見てみようという思いからだ。
まずドラマを見始めて最初に特筆すべきと思ったところは、多部の“ストーリーテラー出演者”ぶり。
連続ドラマの1話目や単発ドラマでありがちなのが、妙に説明くさい出演者の存在。よくスポーツ中継などで使われる表現で「筋書きのないドラマ」という言葉があるが、ドラマでも“筋書き”のようなものが目立ち過ぎると一気になえてしまう。
その点、初めてこのドラマに触れる人にも、日暮の特徴をフランクに、分かりやすく説明する役割を担った多部の存在は大きい。
そう言うと「演出や脚本がそうなんだから当然じゃない?」という声もあるかもしれないが、それは断じて違う。多部の表情には演じているという感覚は感じられず、素直に異質な存在に触れる女性を表現しているようにしか見えない。
それに眉間に皺を寄せながら「はぁ!?」というせりふを吐くのが似合う女優は、彼女くらいのものだろう。それだけドラマになくてはならない、全てをつなぐ懸け橋となっているのだ。
そして主人公を演じた松坂。今回、ダイオウグソクムシの折り紙を折る少女・灯衣(住田)の父親役ということもあってか、全編通して“優しい”存在。
もちろんわざわざ説明するまでもなく、イケメン俳優として世間的にも認知されているが、彼の声には不思議な安心感があるように個人的には思う。だから父親役というのもピッタリで、松坂が優しく強い思いを娘に語る終盤のシーンでは、思わず目を閉じて聴き入ってしまったほど“深イイ”声を持っている。そんな父娘の絆も注目して見てほしい。
それからアニキ(日暮)思いの弟分・濱田も味わい深い演技をする。以前から思っていたが、濱田のツッコミのタイミングはいつだって絶妙過ぎる。「大事MANブラザーズ」をツッコミのワードとして用いることができるのは、彼のテンポ感だからこそなのではないか。アニキ思いのあまりに出てしまう言葉の数々には思わずグッとくるものがあった。
その他にも、「シシドジョウ」という名のネコを探す中野英雄や北大路演じるドクターのチャラさ、「イヤ~ン♪」だけで全てを表現する橋本マナミのナース、東大出身のTVディレクター&木下ほうか扮するチーフディレクターの“一昔前のギョーカイ人感”、「不審者に出くわしたら…」のポスター、うまい棒ならぬ“う~まん棒”など、堤監督独特の世界にはやはり脱帽である。
彼の世界観が最も強く出ていたと思われるクライマックスのシーンは、緊迫するはずの場面なのに、笑いっ放し。
2時間ドラマなのに、長いと感じるところが全くなかった本作は、もしできることなら続編も見てみたい。それはおそらく筆者だけの思いではないはず。このドラマの日暮のように感情を目で見ることはできないが、試写会を共に見ていた一般の方からは見終わった後、“幸福のオーラ”がはっきりと見て取れた。
最後に劇中のせりふにちなみ、「自分がこの目で見る一番幸せな光景」は何だろうかと考えた。それは、この記事を読んでくださった方とたまたまだ電車などで出くわし「このテレビジョンの試写室記事いい感じじゃん!」と、友達と語り合う姿を見ること…かもしれない。何やらうさんくさいけど、それが一番大事!
見えないものを見ようとして望遠鏡をのぞきこむ…のもいいけど、もう少し感覚を気にしてもいいのでは?
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