第37回モスクワ国際映画祭にてNETPAC賞(The Network for the Promotion of Asian Cinema / 最優秀アジア映画賞)などを受賞した呉美保監督の映画「きみはいい子」が、1月20日(水)にBlu-ray&DVDでリリースされることが決定。発売に先駆けて呉監督と出演する尾野真千子にインタビューを敢行。共演者の印象や作品の見どころを聞いた。
原作は坪田譲治文学賞を受賞した、中脇初枝の同名ベストセラー小説。問題に真正面から向き合えない教師、幼いころのトラウマによって自分の子供を傷つけてしまう親。大人と子供にまつわる現代の問題を孕みながらも、「人が人を愛すること」を描いた作品だ。
――虐待してしまう母親役・水木雅美には共感できるところなどありますか?
尾野:共感は…分からなかったですね。結局、一番先頭に出てくるのが虐待なので。それに共感することはないなと思いましたね。人生どうなるか、自分だってどうなるか分からないですけど、虐待そのものに共感してはいけないのかなと思って。一応共感せずにやってました。
――“ママ友”が何人もいらっしゃる中で、大宮陽子役の池脇千鶴さんと親しくされるシーンが多くありましたが。
尾野:池脇さんとは、今回2度目の共演になるのかな。やっぱり器用だなと思いました。本当に器用な女優さんなんだなと。どこまでも崩してくるんですよね。本当の池脇さんてしっかりしていて、大人だし、真面目で。芝居一つ一つにすごく細かくて器用だなと思ったのが印象ですね。
――これまでドラマでも“ママ友”をテーマにした作品にもご出演されてきたかと思うんですが、“ママ友”の印象・イメージなどありますか?
尾野:まだ未知なんですけど、でも怖いなって思いましたね(笑)。どこでもママ友を描くに当たって、そんなに和気あいあいを描いているものってやっぱり少ないんですよね。
そういうもの(怖い側面)ばかりがフィーチャーされていて、「ママ友って怖いものなのかな?」とか。自分ももしその場に加わるとしたら、ちょっとどうなるんだろうって。まだ分からないですけどね。
――共演のシーンはなかったと思うんですが、高良健吾さんの印象はいかがでしたか?
尾野:共演はなかったんですけど、1日だけ集合写真を撮る時間がありまして、その時に来てくださったんですよ。なんでしょうね…あの方も器用ですよね。新米教師がピッタリの役ですよね。でもいろいろ考えてたんだなというのを公開の時にお話したんですけど。真面目に考えてされてたんだなと思いましたね。
――今回、学級崩壊というのも一つのテーマかと思うんですが、教育の現場とか実際に取材されたりしましたか?
呉監督:行きましたね。普通の学級もそうですけど、特別支援学級というのも今回出てくるので、そこも見させてもらったりとか。現役の教師、高良さんくらいの新任の教師の方にも「何で教師になったのか」とか、「実際学校に入ってみた後、現実と理想は違ったのか」とか、そういう取材もさせてもらったり。いろいろ見させてもらいましたね。
――個人的に高橋和也さんの存在感がすごいなと思ったんですが。
呉監督:前回(映画「そこのみにて光輝く」'14年公開)、本当にどうしようもない、何なのっていう憎まれ役をされたんですよ(笑)。前回出ていただいたんですけど、私自身の中で高橋さんに対して、報われないモヤモヤっとしたものが残っていて。
今回、高橋さん演じていただいた大宮先生というのは原作にはいない人なんですけど、取材をしていく中ですごく似たような、今回大宮先生のモデルになっている先生に出会って、何ていうのかな…支援学級の先生なんですけど、太陽みたいな人だったんですよね。
こういう人が新たに映画の中に出てくると一ついい存在になるというか、高良さんに対しての何かヒントになるんじゃないかという話を脚本家として。じゃあ誰にやってもらおうとなった時に、そのモヤモヤっとしていた高橋さんへの(笑)、自分の中のある種の償いじゃないですけど、「あっ、この役でできるんじゃないか」と思ってお願いさせていただきました。そしたら見事にあんなふうに演じてくださって。
高橋さんて“えくぼ”があるんですよね。前作ではそのえくぼが気持ち悪くて仕方なかったんですけど(笑)、ブラックホールみたいで。でも今回は、そのえくぼが実にチャーミングに見えて、こんなにもえくぼが真逆に見える。でもそれは演じていらっしゃる高橋さんのすごさなのかなと。
――では、最後に作品の見どころをお願いします。
呉監督:息苦しいなと思っている人、それは別に大きな問題を抱えているとかじゃなくても、ちょっとしたささやかな悩みだったりしてもその人にとってはすごい悩みだったりするわけですけども。
そういう人たちのほんの一歩とか、ちょっとあした頑張ってみようかなとかそういう気持ちになってもらえたらいいなと思ってこの映画を撮ったので、普通に外に出ている情報としては「虐待が」とか「ネグレクトが」とかいう印象になっているんですけども、その先に私はちゃんと前向きになれるヒントを描きたいと思ったので、その先を見ていただきたいと思います。
尾野:この映画は“ジエンド”ではない、“続く”という映画だと思います。たぶん虐待や学校でのこととかいろいろなことがあって、手を差し伸べてもらったりとかきっかけがあって、そして、これからがある。
私たちはそれを演じて、見てくれた人は「こういうことあるよね」「分からなくないよね」と思ってくれたと思うので、この先ってどうなるか分からないですけど、いい方に転がるかどうか分からないけど、それが話せる映画だと思うんですよね。
周りで起きていることとか身近にあることとかを皆さんで話し合える、そうやって話し合ったりとか触れるということが大事なんだなと思わせてもらった映画なので、そういうふうに皆さんにも思ってもらえたらなと。とにかく触れてほしい、話してほしいと思った映画なので、皆さんにもそれを味わっていただきたいと思います。
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