劇団KAKUTA人気作「痕跡(あとあと)」ついに再演

2015/12/04 05:00 配信

芸能一般

一人の少年の悲劇的な事件を発端に、さまざまな人たちがそれぞれの側面から過去の「痕跡(あとあと)」をたどる物語

'14年8月に上演し、第18回鶴屋南北戯曲賞受賞、第59回岸田國士戯曲賞最終候補となった、劇団KAKUTAの「痕跡(あとあと)」が再演される。初演時は青山円形劇場にて完全円形の舞台で上演されたが、今回は新たな演出のもと、よりパワーアップするという。今回の再演について作・演出の桑原裕子に語ってもらった。

「動員数が最高になったのはこの作品だけの力ではなく、今は閉館となった青山円形劇場での最後の公演だったからということもあります。当初は円形劇場のために作った、円形劇場でしかできない舞台だと思っていたので、再演はないだろうと思っていました。

でも『痕跡(あとあと)』がKAKUTAの代表作と呼べる作品になった実感はあり、またやりたいという思いは初演の公演中からすでに感じていました。ことし、この作品で第18回鶴屋南北戯曲賞を受賞することができ、また劇団が結成20周年を迎えるという二つの機会が重なったことで思い掛けず早く再演できることになりました。

昨年まで予定してなかったことで、本当にうれしいです! プレッシャーはもちろんありますが、新たな劇場と新たな演出でこの作品の奥行きをより深め、広げていけたらと思っています」。

再演に当たり、キャストは基本的には前回と同じだが、キーパーソンをまた同じメンバーでできることはなかなか難しいはず。

「今年KAKUTAでは『ひとよ』という舞台を5月に上演していて、急きょ決まった『痕跡(あとあと)』と再演作が続きますが、『ひとよ』の際には、再演に当たりキャストが変わることが面白い可能性をもたらすということも感じました。

ただ私の脚本、特にKAKUTAの作品は当て書きがほとんどなので、それぞれのキャストにラブレターを書いているような感覚で、初演を越えるキャストを想定することはいつも難しいんです。今作で戯曲賞を受賞できたのは本だけではなく、キャストたちの力も大きかったと思うので、同じキャストでやることを熱望しました。

が、今作でも、若手人気俳優の川隅美慎さんを新メンバーとして迎えていて、やはり新しい風がもたらす作品の変化も大きく、刺激をもらっています」。

前回は青山円形劇場、今回はシアタートラムと普通の劇場ステージへの変更は大丈夫なのだろうかと思いきや、さすが桑原裕子。

「まずは自分の中にある円形劇場へのこだわりを手放すことから始めました。稽古がはじまる前にスタッフの方々と打ち合わせを重ね、たくさんアイデアをいただいて、せっかくもう一度やれるのだから冒険しようという気持ちが高まりました。

舞台美術や照明は大きく変わりますし、演出も新たに作り直しています。円形劇場では“全方位から見ることができる”ことと、“どの位置から見ても舞台が近い”ことが魅力でしたが、その全方位の魅力が実現できない分、シアタートラムならではの特色を生かし、奥行きを生かした舞台になっています。トラムは舞台の奧に凸状に突き出た一角があるのですが、そこから客席までの距離は立体的でとても面白いんです。

例えば舞台奥から舞台ツラまでダーッと走ってきたりすると、客席に迫ってくるインパクトがある。だから客席との物理的な近さが魅力だった初演から、遠近感を利用した距離感の楽しみ方へと意識をシフトして作っています」と、初演とは違った魅力が増しているようだ。また、役者についても、

「今作は一つの事件を中心に据えた群像劇で、被害者側、加害者側、目撃者側と角度によって事件の見え方が大きく変わります。どの側面にも正当性やエゴがあり、人として共感できる部分も批判的な部分もある。だから、お客さんが誰に感情移入すれば良いか迷う舞台にしたいという想いが初演からあったんです。

そのことを俳優陣もよく理解しているので、誰も気が抜けないというか、それぞれ重い背景を抱えていることを再演ではさらにおのおのが意識して稽古していると思います。その中でも、物語をまるで綱引きの端と端のような相反する立場から牽引していくのが斉藤とも子さんとカムカムミニキーナの松村武さん。お二人の重厚な芝居が作品に深みを与え、そこへKAKUTAの劇団員や個性鮮やかなゲスト陣が負けじと挑むことで、一人一人が違う輝きを持った人間味のある役として存在していると思います」と思い入れが強い。

初演の評判の高さに加え、新たな演出への期待度も高まり、早くも12月14日(月)の夜7時の追加公演も決定した。

「初めて見る方はもちろんですが、すでに初演をご覧になった方も、劇場が変わったことでブラッシュアップされた演出の違いを楽しんでいただけると思いますし、円形だったことで初演時には見えなかった俳優たちの表情などもトラムでは見ることができますから、きっと新しい発見をしていただけるはずです」。