水道橋博士「新・映像の世紀」に愛あるツッコミ!

2016/01/15 23:25 配信

芸能一般

トークショーに登場した水道橋博士(左)と制作の寺園慎一氏(右)

NHKスペシャル「新・映像の世紀」(NHK総合)シリーズの世界を体験するイベント、その名も「体験する 新・映像の世紀」が東京・丸の内ビルディングで開催中だ。初日にはシリーズの見どころを語るトークショーが行われ、シリーズのファンだという水道橋博士、東京大学大学院教授の瀬地山角氏、制作を担当するNHK・寺園慎一氏が登場した。

「新・映像の世紀」は近年新たに発掘された映像史料などから、過去100年の歴史を追体験するシリーズ。'95年から'96年に放送され大反響を呼んだ「映像の世紀」の続編ということで、旧作ファンからも注目を集めている。

新シリーズをSNS等でも発信している水道橋博士は、シリーズの出合いについて「旧作の放送された'95年は、阪神・淡路大震災やオウムによる地下鉄サリン事件があった年ですが、旧作を見てテレビでこれだけ死体を映すのかと衝撃を受けました。同時に“20世紀は戦争の世紀”だったというメッセージに、『自分はそういった負の遺産から目をそらしてきた』という思いを抱きました」と語った。

大学の講義でシリーズを活用しているという瀬地山氏は、「映像の世紀」を“NHK史上最高のドキュメンタリー”と位置付ける。その魅力は「識者のコメントを一切入れずに、映像だけをつないで番組を作るというフォーマット。論文でいえば、資料だけをつないで主観を一切入れないという、非常に難しいことをしている。だからこそ20年たっても色あせないんです」と分析する。

実は、旧作を作るときにスタッフは“世界史に残る有名な出来事でも映像で語れないものは落とす”“新たな証言者へのインタビューは行わず、全て資料映像に語らせる”“完成した作品ではなくできる限り一次資料に語らせる”という三原則を決めていた。

そんな名作の続編ということで、水道橋博士が言うように「何を掘り起こして、何を描くのか」が注目されてきた。寺園氏は新シリーズの企画意図を「歴史の裏側で動いていた人々に迫り、歴史の手触りを感じるものにしたいという思いで作りました。それから“歴史がどのように現代につながっているのか”を描きたいと思っています」と説明した。

その言葉通り、第1集ではアラブ独立の英雄として描かれることの多かったアラビアのロレンスを、イギリスの情報将校としてアラブ社会に食い込み最後に裏切った人物としてフォーカス。彼の行動が、現在に至るまで続く中東紛争のきっかけを作ったという事実を明かし、その葛藤を描いた。

一方で、第1集の放送後には旧作ファンから演出過多と批判の声もあったという。トークショーの最中には、ツイッターで「視聴者の反響を見て、第2集以降の演出を変えた?」という質問が寄せられた。

寺園氏は「第1集の範囲というのは映像が少ない時代。その中で旧作との違いを生み出すため、“遊び”や“工夫”を入れた部分がありますが、そこに批判もありました。もちろんそういった世間の反応を受け止めていますが、テレビマンとしての矜持(きょうじ)もあるので、批判があったから全てを変える、というわけでもありません」と制作の葛藤を語った。

そんな苦心の末に生み出された「新・映像の世紀」。水道橋博士は、印象に残った映像として第2集で放送されたアメリカのロックフェラー家の話を挙げた。

話はこうだ。'20年代に大富豪の地位を確立したジョン・D・ロックフェラーは、“資本主義こそが世界平和を築く”という信念の元、ロックフェラーセンターを建設する。彼の理想は3代目、デイヴィッド・ロックフェラーにも引き継がれ、デイビッドもまたあるビルを建てる。そのビルこそ、'01年にテロの標的にされたワールドトレードセンタービルだった。

水道橋博士は「番組では、資本主義の悪魔の一面を見せながら、ロックフェラー家が信念を持って資本主義を広めようとする姿が描かれます。その結果建てられたワールドトレードセンタービルは、まさに“資本主義の象徴”だからこそ狙われた。なんて運命的なんだと思いました」と熱弁。

さらに、「でも最後のカットは9.11の映像ではなく、ワールドトレードセンタービルの模型でしたよね。なぜあそこで9.11の映像を使わなかったんですか?」とコアなファンならではの目線でツッコんだ水道橋博士

寺園氏は「正直、最初は9.11の映像を使っていました」と指摘の鋭さに苦笑。「ただ、あれは第2集ですから、“現代”ではなく次の回の“第2次世界大戦”につなげなければいけない、と思って変えたんです」と編集の裏話を明かすと、水道橋博士も「たしかに秘すれば花とも言いますね」と納得の表情を見せた。

瀬地山氏は、第3集で放送された“アドルフ・ヒトラーの演説”が印象に残ったという。「ヒトラーがどのように独裁政権を打ち立てるかというプロセスは教わるんですが、その原動力となった力を伝えてくれるのは動画でしかないんです。映像を見て私たちはその本当の怖さを初めて知り、理性でどうやってその力に対抗できるか、と考えさせられるんです」と力を込めた。

これには、隣で聞いていた水道橋博士も「旧作ではヒトラーの首相就任演説が使われましたが、聴衆の表情を見ても陶酔しきっているのが分かるんですよね」と同調した。

今回のシリーズでは、旧作の10倍以上の映像史料を集めたという制作チーム。スタッフによると、史料のアーカイブ化が進み、保存先まで出向かなくても映像を入手することができるようになったという。とはいえ、さまざまなデータベースからしらみつぶしに映像を探したり、使用許諾を取ったりという作業は果てしない。

寺園氏は「時には莫大な使用料をふっかけられることもありますが、10秒の映像でも番組全体のクオリティーが変わってくる。命懸けで値切り交渉をしています(笑)」とその裏側を暴露した。

最後に、寺園氏は、1月24日(日)夜9時から放送される第4集の見どころを紹介。「第4集は冷戦の中でも、前作では描かれなかったスパイ戦に焦点を当てます。スパイの映像は当然かなり少ないのですが、一生懸命探してきました(笑)。東西両陣営が疑心暗鬼に陥って何から何まで撮影しているので、そういった映像が残っていたりするんです」と語った。

イベント「体験する 新・映像の世紀」は東京・丸の内ビルディング1階“マルキューブ”にて、1月17日(日)まで開催される。映像展示では、放送回ごとにモニターを設置。真っ白なスクリーンを特殊なレンズ越しに見ると、番組で紹介された映像が映し出されるという不思議な仕組みになっている。

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