駿河太郎「自分に素直」初主演映画で竹久夢二に共感

2016/07/22 07:00 配信

映画

駿河太郎が初主演映画「夢二~愛のとばしり~」について語ったヘアメイク:白銀一太、スタイリスト:種市暁

“日本最初のポップアート”アーティスト・竹久夢二を描いた映画「夢二~愛のとばしり」が、7月30日(土)から公開される。主人公の夢二を演じたのは、本作が映画初主演となる駿河太郎。妻・たまき役を黒谷友香、“最も愛した女”といわれる彦乃(しの)を小宮有紗が好演している。

明治、大正、昭和の3時代を生きた夢二を、人間、男としての悲しくも愛ある姿を捉えた作品。美人画のモデルとなったたまきとの憎愛と決別、彦乃との逃避行や彼女の死など、夢二が生きたロマンあふれる時代を再現しながら、彼に翻弄(ほんろう)された女性たちの姿を通し、人間としての夢二の本質を浮き彫りにしている。

これまで名バイプレーヤーとして数々の作品に出演してきた駿河が、主演を務めて感じたこと、夢二への思い、撮影の裏話などを語ってくれた。

──映画初主演はいかがでしたか?

僕は脇で入ることの方が多いから、主演を経験したということは非常に大きいと思います。でも、脇と主演で意気込みが違うかと言われたら、どれも一緒ですね。役割が違うだけで、作品に対して僕ができること、やりたいことというのは一緒ですから。

もちろん、監督と一緒にチームを引っ張っていかなければいけない立場ではあるんですけど、そんなに変わらなかったです。大変でしたけどね。一番出番も多いし、現場でスタッフの方たちと接することも多いので。若干(撮影の時の)記憶が薄れてはいます。必死過ぎて(笑)。もう朝から晩までずっと撮影していましたから。

──共演者との接し方は違ったりしますか?

映画で、こういう作品で主演というのは初めてでしたけど、やってみて思ったことは、主演って“受け”なんだなって。芝居として僕がいくらどうしようが、周りの人から“来た”ことに対して“受ける”ことが一番成立する気がして。もちろん、引っ張らなければいけないんですけど、黒谷さんがたまきとしてそこにいてくれて、小宮さんが彦乃として現場にいてくれるから、僕が勝手に夢二になれた気がします。

こういう経験をしたことが本当に大きいと思うので、また自分が脇で作品に入る時は、そういう空気感を出していきたいなって思いましたね。

──竹久夢二という人物は以前からご存知でしたか?

何となくですね。名前は知っていたし、日本のデザイナーの走りの人とか、「夢二式」といわれる美人画を描いているのはうっすらとは知ってはいましたけど、どういう人物像とかは知らなかったので、原作の本を読ませてもらった時に初めて詳しく知った感じですね。

今回の映画は、夢二の女性との関係をクローズアップしていますが、僕は本質的にはそこだけではないと思うんですよね。たまきを描いた絵が売れた、でも実は詩人になりたかったという一面も持っている方だったから、自分のやりたいことと評価されることのギャップとか、そういういろんなことにピュアに苦悩している人物なんだろうなって。分かりやすい男と女の話だけではなく、そういう内面的な苦悩している、何に対して苦悩しているかっていうところは、気にしながらやったつもりです。

僕がやれることはやったので、それが見てくれる人に伝わるかはもう見てくれる人の判断だなとは思いますけどね。それはライターでもそうだし、役者でもそうだけど、飯を食っていくためにやることと、本当にやりたいことって絶対にギャップがあるじゃないですか。そこはよく分かるなぁって気はしながら、夢二像をつかんでいったつもりです。

──芸術家・夢二を演じる中でこだわったところはありますか?

哀愁が出せれば、とは思いましたね。苦悩していることによって、女の人に救いを求めたわけじゃないけど、でも分かりやすくそういう部分を描いているので、一緒にいるけど寂しかったりもする。そういう哀愁の部分が出ればなとは思いました。それが出ているのかは、見てくれる人に任せます(笑)。

──演じたことで夢二の印象は変わりましたか?

僕が夢二のことを好きになりましたね。すごくピュアな人だし、そういう生き方ができればなっていう希望的観測はありますけど。自分に素直に。世間的にはね、それをやったら絶対に駄目ですけど(笑)。

でも、恋愛だけじゃなくて仕事に対してのアプローチの仕方もね。自分になるべく正直でいたいけど、そうじゃないことを求められるっていうところの苦悩。でも、夢二はどっちもやっていた人だから、そういう部分では僕も現代なりのそういう突っ張り方はしたいかなって思いますね。

──撮影中、黒谷さんとはどんなお話をされたんですか?

実は現場で黒谷さんとほぼ喋ってないです。だから、本当にたまきとしてそこにいてくれて、逆に僕は(夢二と同じように)小宮さんとずっと一緒にいたんですよ。それも(黒谷さんに)作られたなって。(その空気感が)作品にたぶん出ていると思いますね。

クランクアップが夜の海辺のシーンだったんですけど、寒いからすぐに近くの温泉に行って、(温泉から)上がってから「お疲れさまでした」って。そこでお互いに駿河太郎黒谷友香になって、初めて笑顔で話ができました。それは黒谷さんが作ってくれたなって思います。

──小宮さんはいかがでしたか?

プロデューサー経由で話を聞いたら、当時のことをあまり覚えてないらしいですよ、いっぱいいっぱいで(笑)。僕も主演でいっぱいいっぱいの部分もあるし、いろいろなことを考えなきゃいけないけど、(彦乃として)ずっとそばにいてくれたから、そういう意味では彦乃的な母性をすごく持っていたなという気はします。

──体当たりの演技など、小宮さんにとっては挑戦となる作品だったと思います。

僕は撮影の4分の1くらいは“前貼り”で過ごしていたんですけど(笑)、僕が恥ずかしがっても意味がないし、恥ずかしがることでもないと思うから。でも、(小宮さんは)あの若さで、大勢のスタッフがいる中で裸を見せないといけないわけじゃないですか。大事なところを隠しているといえども、ほぼ全裸ですからね。

20歳くらいで、僕だったらできるかなって思ったらできないですよ。でも、完全に吹っ切って相手をしてくれたので、すごい女優やなって思いますし、小宮有紗という女優が大好きになりましたね。

──別の作品での共演も見てみたいです。

兄妹役とかやってみたいですね。僕が年いってるから兄妹に見えるかどうか分からないですけど(笑)。この作品では夢二が彦乃にずっと寄り添ってもらってるので、逆に小宮有紗演じる妹がお兄ちゃんの僕を頼るみたいな設定。逆パターンは面白いかなって思いますけどね。ないとは思いますけど(笑)。

──今回の作品は演出が独特でしたね。

時代背景もそういう演出に合っているなって思いますし、なかなかない演出なので、日本映画として新しい挑戦している部分がすごくあったと思います。自分の芝居には反省が多いですけど、作品としてはすごくいいなって思いました。

日本映画として、時代的にも世界に誇れる時代だと思うし、日本のいい時代じゃないですか。日本のいい文化と西洋の文化かうまい具合に混在している、すごく哀愁のある時代。だから、そういう作品として見るとアート作品として僕は好きだし、人間の泥臭いところもちゃんと描いていると思うので、ヨーロッパとか海外の人に見てほしい作品やと思いましたね。

──最後に読者へメッセージをお願いします。

THE・エンターテインメントの映画ではないです。ただ、こういう古き良き日本の時代を切り取った作品で、日本を代表する映画になってくれればなって思います。それに映画館で見てもらいたいです。本当に映画が好きなスタッフが集まってやっているので、すごく細部までこだわって画作りをしている。音楽に関してもそうだし、そういう細部まで楽しめる映画ではあると思うので、そういう時代を思い出す一つのきっかけとして、映画館でそこに浸ってもらえたらなと思います。