内藤瑛亮監督、“ライチ”公開後「戦々恐々としていた」

2016/08/13 08:00 配信

映画

「ライチ☆光クラブ」でメガホンを取った内藤瑛亮監督

‘16年2月に公開された映画「ライチ☆光クラブ」が、8月3日にBlu-ray&DVDをリリース。本作のメガホンを取った内藤瑛亮監督にインタビューを行った。

野村周平古川雄輝中条あやみら注目の若手キャスト総出演で大きな話題を呼んだ同映画の撮影秘話や、キャスト陣の印象などを語ってもらい、前編後編に分けて紹介する。

――本作を映画化しようと思われたきっかけは何でしょうか?

男子なので小さい頃からSFやそのジャンルの映画は好きで、ずっと憧れていました。特に僕は10代の頃、あまり友達もいなかったですし、暗かったこともあって、今回のようなダークな世界は好きなんです。聴いていた音楽もマリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズのような曲ばかりだったので、寂れた工場のインダストリアルな世界観に強く引かれていて、それがライチにつながったのかなと思います。

――廃工場のセットはどの辺で撮られましたか?

最終的には静岡の富士市にある工場地帯でしたが、舞台の「蛍光町」を映画として成立させるには、非常にハードルが高かったです。その辺の町をポンと映しても成り立ちませんし、かといって予算がそれほど潤沢にあるわけじゃなかったので町そのものをセットで作るのは無理だったんです。

グリーンバックにCGというのも無理だなと。なので、元々ある程度は蛍光町という町に即しているような場所で、そこに美術やCGを組み合わせることによって成立させようと思いました。その時にあの工場と出合い、ほぼ全ての場面をあの工場一帯で撮ることになりました。この辺が学校で、この辺が秘密基地で、この辺は登下校の場所で…と決め、そうすることによって廃工場一帯を蛍光町に見立てることができて、うまく町を作りこむことができました。

――結構いろんな候補地を巡られましたか?

そうですね、いろんな工場に行きましたよ(笑)。廃工場は好きで楽しかったんですけど、実際撮影で使うとなると大変で。秘密基地だけならこの場所で成立するかな、ワンシーンだけならいけるかなっていう場所はあっても、次の場面とのつなぎはどうしようかな…といろいろと考えるとどこも難しくて。仮にいい場所がそれぞれ離れた場所で見つかったとしても、世界観を統一させるのが無理だなと。やっぱり近い場所で固まっている方がいけるだろう、という思いはありました。

――そもそもこの作品がお好きで映像化しようと思われたんですか?

古屋(兎丸)さんのことは以前から好きだったんですけど、「ライチ☆光クラブ」は読んだことがありませんでした。ちょうど古屋さんがデビューしてすぐに発表された「Palepoli」や「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載されていた「Π(パイ)」は、熱心に読んでいて好きだったんですけど、映画を作るようになってからはあまり漫画自体も読まなくなったんです。それからしばらく古屋さんの作品から離れ、今回映画化のお話をいただいて懐かしい気持ちになりましたね。

ライチは古屋さんの代表作の一つで、僕は今回初めて読みましたが、初期作にあったものが集大成的に構築されているなと思いました。非常に暴力的な部分はあるけど、それが物語とかみ合ってコントロールされていますから。初期作とは違った魅力を感じるものになっていて、読ませていただいて感動しました。

――漫画原作を映像化されたので、反響も大きかったのではないですか?

原作モノは、まずビジュアルが難しいですよね。ファンもすごく愛しているので、ちゃんと形にしなきゃいけない。でも、だからと言ってそのまま似せても面白くならない時はありますから。やはりメディアが違うので、漫画で受けた感動が映画で同じことをやったとして、そのまま出ないこともあると思うんですよ。

だから公開されて、戦々恐々としていたんですけど(笑)、比較的皆さん満足してくれたような声を頂きました。それに結構サブカル系の女性アイドルが、この作品のファンだったらしくて、よくツイートしてくれました。特にニコ(池田純矢)の評判が高くて、気に入ってもらえて良かったです。

――監督から見て、これはハマったなあというキャストは誰でしょうか?

全てのキャストを時間かけてオーディションしたので、全体的にハマったと思いますが、ゼラ(古川)役はかなり悩みました。ほとんど説明に近いせりふを喋る役で、通常のドラマや映画では説明ぜりふを延々と語るのはダサイことですから。かといってそれを丸々カットして、役者が自然体で演じてしまうとゼラではなくなってしまうし。そのアンビバレントは悩みましたが、古川さんは非常に絶妙なさじ加減で演じてくれました。現場で見ていて面白いなと思うことが多かったですね。

それに演技プランを緻密に考えてくる方で、特に印象的だったのは「おはよう、廃虚の恋人たち」という場面。そこで古川さんはベロを出したんです。原作の別場面でゼラがそういう動きをしているんですよ。古川さんはその原作の動きを隅々まで頭に入れて取り入れつつ、芝居を構築していて。

「メェ~って舌を出すのもどこかで入れたいんです。ここかここで悩んでいます」って悩まれていて。面白い事を考えているなと思いました。「じゃあ廃虚の恋人~の場面でやってみなよ」と言って、実際に彼が突然やったら現場がどよめきました。

ベロを出すのは台本にも書いていないので「古川どうした!?」って(笑)。その場に野村周平さんがおらず、翌日、撮影に来たらそのうわさを聞いたらしくて「古川くんが昨日『メェ~』って言ったらしいんですけど、何があったんですか?」って開口一番聞いてきました(笑)。

――古川さんだけ皆さんより少し年が離れて上なんですよね。

はい。ちょうどゼラがみんなよりかけ離れている存在ということもありますし、年齢差もその構図に繋がるなって。それに、彼はこれまで“王子様キャラ”が多かったので、そこから別の面も出していきたいんだという本人の強い意識もあったので、嬉々として悪役を演じていましたよ。

普段の役だとキスシーンがすごく多いらしくて「ことしになって何回もキスしました」って言っていましたが、女性をひっぱたいたのはこれが初めてだったようです(笑)。逆にキスシーンより緊張しましたって言っていました。面白い悩みですよね。ただ、男(間宮祥太朗)とのキスシーンは初めてだって言っていました(笑)。

――そのお相手・間宮さんの美少年っぷりも話題になっていましたけど、監督から見てどうでしたか?

彼はとてもまつ毛が長くて、目元が女性的なんです。体格は男っぽいんですけど、そのいびつさというかズレが、ジャイボというキャラクターのゆがんだ感情を持つところに見事にハマッて。女性でありたいと願うのに肉体がどんどん男になっていく。でも、ある部分を見ればすごく女性っぽいところもあって。そこが間宮さんの素材とすごく合っていました。

それに彼はすごく感情を大事にして演じるタイプで、とにかくゼラが好きという気持ちを持って演じてくれたのですが、そこがいいなと思いました。オーディションの時にも、一番演じ甲斐があるキャラなので、ジャイボを演じたがる人は多かったですよ。

本当は好きなのに嫉妬故の狂気もあって、その根っこには純愛があって…という。間宮さんも「難しいですね」と言っていましたが、ジャイボという人間の難しい感情を一番理解しているように思えたので、そういう人になら託せるかなと思って、彼をジャイボに選びました。

――ジャイボの「キャハッ♪」というところも印象的でした(笑)。

そうそう! 衣装合わせの前に間宮さんが「キャハッ♪も言うんですか?」ってちょっと恐る恐る聞いてきたんですけど、僕は「言ってほしいんだ」って返しました(笑)。でも、いざやってみると、「キャハッ♪」の言い方も場面によってトーンが微妙に違っていて。ジャイボの感情を表せていて、うまいなと思いました。

原作モノにありがちですが、ありえないフレーズだけど避けては通れない表現だったので、間宮さんが絶妙なトーンでやってくれて良かったです。

【内藤瑛亮監督「お気に入りはダフの一人エッチ(笑)」へ続く。同記事は8月14日(日)朝8時に掲載予定】