シンプルにヤバい奴なんで(笑)
――個人的に気になるキャラクターはいますか?
樋口師匠ですかね。何か思い入れがあるんです。みんな当たり前のように「樋口師匠は最高です!」なんて言ってますけど、あまりいないですよ、ああいうキャラクターって。特にTVドラマや映画に出てくることは皆無でしょうね。シンプルにヤバい奴なんで(笑)。
でも、あんなふうに時間を超えたような“万年学生”みたいな人がちゃんと存在していて、知見のある人として居場所がある世界っていいなと思います。森見さんの作品はそういう感じがする。樋口師匠はその象徴ですよね。
他のキャラクターで言うと、歯科衛生士というまっとうな仕事をしているのになぜか下鴨幽水荘に出入りしている羽貫さんも好きですし、明石さんが撮る映画がポンコツなところもすごくいい。それにちゃんと“全乗っかり”する映画サークルの学生たちもいいなって思います。阿呆学生ってそういうことですよね。傍から見たらどうでもいいことにみんなで熱くなる。学生たちがちゃんと無意味なことに命を燃やしている姿は好きですね。
いまだに大学時代の延長のような感覚
――上田さんの学生時代は演劇一筋だったんですか?
「サマータイムマシン・ブルース」は大学時代の作品ですし、ヨーロッパ企画を立ち上げたのは僕が大学1回生の時。そこから5年大学に行って、結局演劇が忙しくなって卒業できずに学校を辞めたんです。
その時、すでに11本ぐらい本公演をやっていて、僕以外のメンバーはみんな卒業していたんです。でも、なぜかみんな就職していなくて。「あ、そっか。僕を待っているのか」っていう状況でした(笑)。
本当は大学に行っている間に演劇をやって、卒業したら個人で何かを作る人になるのかなとか。工学部だったので技術系の会社に行くか、あわよくば放送作家とかになれたらいいなと思っていたんです。結果的に今もあのころと同じように演劇をやっている。いまだに大学時代の延長のような感覚がありますね。
――舞台版&実写映画版の「サマータイムマシン・ブルース」、そして今作も田村くんというキャラクターは本多力さんが演じています。今作における田村くんの役割は?
一応目論見としては、未来からもっさりしたやつが来るっていう感じが面白いなと思っていて。最初の舞台版の時にそういうキャラクターにしたんです。
「四畳半神話大系」の登場人物たちもみんなもっさりしているから、もっさりした中にもっさりした人がやって来るというどうしようもない空間になっていて。その中で明石さんだけが凛としている。本当は未来人ってもう少しピシッとしていてほしいんですけど、正反対のタイプの奴が来る感じがいいなと思っています。
4年ぐらい前に「続・時をかける少女」という舞台をやったんですけど、あれはヒロインが未来人に恋をするという筋立て。“時かけ”の原作が世に出た何十年も前の時代は、未来人ってすごく輝いて見えたんです。まだ未来が明るかった頃。でも、それを現代で作り直した時に、未来って決して明るいものではないから、未来人ってあまり無条件に恋に落ちる相手ではなくなってしまいました。
そんな風に、昔と今では未来人の印象が違うような気がして。そんな中で登場するのがもっさりとした未来人である田村くん。未来から来ている彼は、何か現在を引きずって生きているようで、何となく手が届く未来っていう感じ。田村くんはその象徴なのかもしれないですね。
――もし、タイムマシンに乗れたら過去と未来、どっちに行きたいですか?
過去ですね。音楽が好きなので「プロテスタント・フォーク」から1970年代の四畳半フォークに移り変わるその時代の変わり目を見てみたいです。
――「私」役の浅沼晋太郎さんは、コメントで「四畳半神話大系」が声優としてのターニングポイントだと仰っていますが、上田さん自身の転機は?
「サマータイムマシン・ブルース」の映画化や、TVアニメ「四畳半神話大系」に参加させてもらったこともそうなんですけど、大きな転機という意味ではヨーロッパ企画の「サマータイムマシン・ブルース」の初演。それまでの第7回公演までは観客動員が300人とかでずっと横ばいだったんです。それが、第8回の「サマータイムマシン・ブルース」の時に800人ぐらいになったんですよ。当時300、400人集める学生劇団は他にもあったけど、800人集めるところはほぼなかった。
いろんなことが重なった結果ではあるんですけど、300人から800人に増えたことが自信になりました。自分たちが面白いと思っていることが世の中とつながったと感じた瞬間でしたね。その感覚は今でもはっきりと覚えています。
――そういえば、配信限定エピソードはどんな話なのでしょうか?
これに関してはホントに書かなくてもいい話を書いているんですよ(笑)。でも、やっぱり「四畳半神話大系」シリーズにおいて、書かれなくてもいいエピソードほど美しいものはないですから。別に語られなくてもいいんじゃないかなっていう物語が展開されます。
どこか「四畳半タイムマシンブルース」のビフォーみたいな感じになっているので、これを見るとより深く好きになれるかもしれません。
◆取材・文=月山武桜
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