吉宗は家重を抱きしめて「あとを頼めるか」と言い渡す
吉宗は世継ぎのことで頭を悩ませていた。久通は、己のことより人のために報いたいと思う気持ちがある者こそ、将軍の器があると吉宗に話す。
龍が吉宗に直々に、家重に会うように頼みに来る。家重は「己のような人間はこの世におらぬほうがよい」とまで言い、ひどく気落ちしていると報告する。
昼間から酒を飲む家重の元に吉宗がやってくる。吉宗は家重と将棋を指し、家重は見事に吉宗を負かした。勝利の笑みを浮かべていた家重は吉宗と目が合って顔色を変えて「申し訳ございません」と言うと、吉宗は「謝るな。勝負事に親も子もあるか」と諭した。
吉宗は家重に「私はそなたを馬鹿だと思ったことは一度もないぞ。これがその証じゃ」と将棋の結果を示す。「そなたは実に秀でた頭を持っておる。だが、その秀でた頭をもってしても、世の困りごとは容易には片付かぬ」と言う。
吉宗は自分も「失敗することもしばしば有り、自身の無力と向き合わされ、ときには世の恨みも買う、将軍とは左様な役割じゃ。耐えられるか？ 家重。それでも人の役に立ちたいと思うか？」と聞く。家重は「私には政などとてもできません」と言うが、吉宗はそれは誠の思いかと問いただす。「役立たずだから死にたいと言うておったと聞いた。裏を返せばそれは生きるなら人の役に立ちたいということ、違うか？」と家重の気持ちを汲む吉宗。
家重は漢詩をそらんじ、「存じておりました、みっとものうて声もあげられず。左様な意気地無しでございます。そんな私にでもできますか？ 誰かの役に立つことが」と涙を浮かべる。
吉宗は家重のもとにより、家重を抱きしめると家重は涙を流す。「あとを頼めるか、家重」と吉宗が声をかけると、家重は号泣するのだった。
自分のことがままならない家重のやるせなさが伝わり、吉宗のさすがの采配にも唸らされ、熱い感動がこみ上げてくるシーンだった。
◆構成・文＝牧島史佳
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