演目は第1回定期演奏会と同じビゼー作曲の「カルメン」組曲
“さよならコンサート”の演目はジョルジュ・ビゼー作曲の「カルメン」組曲。俊平は、あおぞら文化ホールができた時に行った第1回定期演奏会での記念すべき演目が「カルメン」組曲だったと聞き、さらにその時からコンマスの近藤が晴見フィルに参加していたことを知り、演目を決定。
近藤は妻と娘をさよならコンサートに誘うが、「無理」「知らんし」と即答。「最後なんだよ。2人とも10年以上来てないじゃん。最後ぐらいパパの演奏聴いてくれてもいいじゃんよ」と笑顔と作って訴えるが、ノーリアクション…。
その後、ホールのステージにやってきた近藤は、誰もいないと思って指揮台に登るが、俊平に声をかけられ慌てて下りた。「学生の時の夢が指揮者だったんですよ。あの頃からレコードかけて指揮者のまね事をやってね。それを今もやってて」と、俊平に思い出話を語り、指揮者が大変なことはよく分かっているとも伝えた。
一方、恋多き女ということで“カルメン”と呼ばれる瑠季にとっても、あおぞら文化ホールは思い出のある場所。6歳の頃に両親が離婚し、それぞれ再婚しているが、父親と母親が年に一度、あおぞら文化ホールで行われる発表会の時だけ集まって“家族”に戻れた。その日のために瑠季はフルートを頑張っていたのだった。「生まれた時からあるホールだから、いざ無くなってしまうと思うと実家が無くなってしまうような気分」と、本音を俊平に漏らした。
コンサート当日、俊平は瑠季に「あなたの音色からイメージされる瑠季さんは、優しくてとても繊細で傷つきやすい人です。だからこそ、あなたのフルートは美しい」と伝え、「曲を変えましょう。もっと瑠季さんに似合う曲がありますから」と言って楽譜を手渡した。「どんな役を演じる必要はありません。あなたはそのままでとてもすてきな人です」と。
最後のコンサートで、俊平が粋な計らいを見せた
その俊平の言葉通り、曲目を変更して行われたコンサートのオープニングは、瑠季の美しく繊細なフルートの音色が響き、ホール外の出店などにいた人たちもその音色に誘われるようにして会場に入っていった。瑠季の父親と母親も客席から大きな拍手を送っていた。
その後、演奏する中で俊平は「どうでしょう?この続きを指揮してみたい方?」と客席から指揮をやってみたい人を募り、何人かにタクトを振らせた。
そして最後に、「このホールと晴見フィルを40年間愛してきたあなたが振ってください」と言って近藤にタクトを渡し、「指揮者に必要なのは何だと思いますか?アパッシオナート、音楽への情熱。心に溜め込んできた情熱を、この瞬間、存分に爆発させてください」と背中を押した。
近藤の夢だった“指揮者”。まさに情熱を込めてタクトを振り、溜まっていたものを爆発させた。妻と娘は客席にいなかったが、満員の観客からの温かい拍手が鳴り響き、スタンディングオベーション。さよならコンサートは感動のフィナレーを迎えた。
廃団まであと1カ月。さよならコンサートによって一つ心の区切りはついたが、残りの期間で何ができるのか、何をやってくれるのか楽しみだ。
◆文=ザテレビジョンドラマ部