<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「育児放棄」【短期集中連載/第2回】
ところが、革命は起きませんでした。
売り上げ部数は2万5000部ほど。皆は「絵本で、こんなに売れることはない」と声をかけてくれたのですが、「絵本で」という言葉が入っている時点で負けです。案の定、「そら見たことか」という外野の声が更に大きくなりました。「あのまま、テレビを続けていれば良かったのに」と。
「何かの間違いだ」と自分に言い聞かせて、2作目の制作に入ります。2作目は『ジップ&キャンディ 〜ロボットたちのクリスマス〜』。大好きだった婆ちゃんとの日々を下地に描いた物語です。あいかわらずボールペン一本勝負でしたが、今度は制作スピードが上がり、約2年で完成。「僕に二度の敗北はない」とか何とか言って、世の中にリリースしましたが、負けました。
次に出した『オルゴールワールド』も、同じく結果は振るいません。僕の絵本の売り上げはいつも2万部程度。その存在を知っているのはコアファンと出版関係者ぐらい。まったく世間から相手にされませんでした。
テレビの世界から軸足を抜いてから、かれこれ7〜8年が経ちました。聞こえてくるのは、「キンコン西野、最近、何してんの?」「テレビから干されたの?」「もうオワコンだね」という声。
悔しかったのは、それが作品の評価ではなく、「作品が届いてすらいなかった」ということです。どれだけ素晴らしい作品を作ったとしても、それがお客さんに届かなければ、作ったこととしてカウントされません。これは、全ての作品(サービス)に共通する不変の理です。
僕は「作った」という認識でいるのに、お客さんは「作った」とは認識していません。ここに「作る」という言葉の意味に乖離があります。今後も作品を作って生きていくのであれば、まずは、この「作る」という言葉の意味を再定義し、お客さんと合わせる必要があると僕は考えました。
「作る」とは何か?
「完成」とは何か?
僕は、制作活動の終わりの地点を「完成」と呼ぶのではなく、制作物がお客さんの手元に届くまでの動線を設計し、お客さんの手に届いた地点を「完成」と呼ぶことにしました。そう再定義したところ、僕が取り扱っていたものは全て「未完成品」になりました。お客さんの手に届くまでの動線設計をしていなかったのです。僕は、お客さんに届ける仕事を、吉本興業や出版社に任せていました。「商売人」として見られたくなかったからです。
お客さんの手に届いて作品は「完成」する
「売る作業」に参加すると、必ず「お金」の話が絡んできます。お金教育を受けてこなかった僕は、お金の話をする大人を「卑しい人」として捉えていて、「そっち側」に行きたくありませんでした。表現者として、汚れたくなかったのです。だから、自分は作ることに専念して、「売る仕事」は吉本興業や出版社に任せていました。
でも、ある時、気がつきました。
「作るだけ作って、売ることは他人に任せています」というスタンスは、一見するとクリエイターのあるべき姿のようですが、実際のところは、「育児放棄」です。僕は周囲の目を気にして、保身の為に、「ヨゴレ役」から逃げてしまっていました。
すべて投げ捨てて、この挑戦を選んだのだろう?
この期に及んで何してんだ。
何を今さら波風を恐れることがある。
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◼︎『映画 えんとつ町のプぺル』特報【12月25日公開】
PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。同番組がゴールデン枠に移行した2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本デビューを果たす。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数45万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。クラウドファンディングでの合計調達額は3億8000万円を突破。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は6万9000人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
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