武田梨奈「感情や行動も“アクション”」主演映画語る
武田梨奈が主演を務める映画「海すずめ」が7月2日(土)に公開される。
本作は、主人公の赤松雀が挫折から立ち直っていく姿を描く青春ストーリー。華々しくデビューしながら2作目の小説が書けず、雀は地元の愛媛・宇和島に帰り、市立図書館の自転車課に勤務している。
自転車で図書を配達する中で、街の「宇和島伊達400年祭」の準備に必要な刺しゅう図録が見つからない問題が発生。さらに、自転車課の廃止案が浮上する。ピンチを打ち砕くべく、雀をはじめ自転車課のメンバーが奮闘する。
雀を演じた武田が、作品の魅力や雀に対する思い、ロケ地・宇和島についてなど、幅広く語ってくれた。
──今回の作品では、自転車で宇和島の街を走り回っていましたね。
自転車は普段から最寄り駅まで行ったり、結構乗っています。ただ、ロードバイクに乗るのは初めてだったので、現場で指導していただきました。撮影が去年の9月から10月だったんですけど、「まだ夏」って感じで結構暑かったです。
──演じる雀が所属する自転車課というのは、架空の部署なんですよね?
最初に台本を読んだ時は、本当にあるんだなって思ったんですけど、実際にはないんです。ただ、「実際にあったらすてきだな」って思いました。自転車で物を届けに行って、そこで人と触れ合うというのは、今の時代だからこそあったらいいなって思いました。
──宇和島はどんな所ですか?
私にとっては「はじめまして」の街でしたが、皆さんとても親しみを持って温かく接してくださり、いい意味で人がすごく近くて、壁がない感じでした。はじめましての感じがしない不思議な安心感がありましたね。
撮影中は宇和島のお母さんたちがお弁当を作ってくれたり、商店街の人たちに食事を作っていただいていたので、毎日のようにお世話になっていました。エキストラも街の皆さんにも一緒にやっていただきました。
商店街を歩いていると、じゃこ天屋さんの人たちが「今、これ揚げたてだから食べな」って声を掛けてくれて、じゃこ天をくれるんですよ。本当に距離が近くて、うれしかったですね。
──劇中では愛媛の方言で話していましたね。
最初に方言指導をしていただいて、資料で録音した物とか、実際に宇和島の方たちが喋っている音声を聞いて覚えました。
ただ、家族でご飯を食べているシーンはアドリブが多かったんです。カットがかかるまでお芝居を続けるんですが、そのアドリブの時の方言が、私もそうですし、内藤(剛志)さんや目黒(祐樹)さん、岡田(奈々)さんも「難しい」って言ってました。
──台本にないせりふを方言で話すのは大変ですね。
そうなんですよ。なので、なるべく宇和島の方と喋って、方言やニュアンスを覚えるようにしていました。
──豪華な共演者ですね。
すごく刺激的でした。ただ、皆さん宇和島の方々と一緒で、とても近い距離で接していただいたので、初対面なのに本当の家族のような感じになりました。
──印象に残っている方は?
内藤さんですね。移動中もそうですし、ご飯の時とか、いつもお話をしてくれました。プライべートやお芝居を始めたきっかけなど、いろいろなお話をしてくださったり、話を聞いてくださって。役的にはお父さんと娘に溝がある、少し距離のある役だったんですけど、実際には近い距離でかわいがってくださいました。
──小林豊さんは共演してみていかがでしたか?
こんなパワフルな同世代の方に会ったのは初めてかなって思うくらい、パワーを持っている人だなって思いました。小林さんの周りにすごく人が集まってくる、本当にみんなから愛されているなっていうのが目に見えて分かるんですね。私が持っていない物をたくさん持っている方だなって。
素直な方なんだと思います。だから、壁を作らずに人が入り込んでいきやすい。私も初対面なんですけど、「小林さんだったらすぐに仲良くなれるな」って一瞬で思いました。同世代にもこういう人がいるんだなって思いました。
──演じる中で、雀に対する印象は変りましたか?
私が想像していたより、雀はもっと深刻なんだなっていうのは、演じていく上で感じました。あることをきっかけに、雀がお父さんに対して勘違いをしていたことに気付くんですね。私はテストの時にちょっと泣いてしまったんです。その時に、大森研一監督から「雀は一切涙を見せないでほしい」「最後まで微妙な感じで終わらせたい」と言われました。
──「微妙」ですか?
すごく笑うわけでもなく、怒るわけでもなく、泣くわけでもなくっていう「微妙なところで雀には生きてほしい」と。感情をあまり表現しちゃいけないということで、そこは難しかったですね。
オープニングではちょっとやる気のないというか、気の抜けた雀ではあるんですけど、監督からは「抜け過ぎてないところまでにしてほしい」と言われて、気は抜けているけど意思は持っているという「微妙なところを演じてくれ」と言われました。
──その独特な演出が大森監督流なんでしょうか?
「ここはこうだけど、でもこうしてほしい」という言い方ではなく、「雀はやる気はないけど、意思は持っているから“そんな感じで”」というタイプでした。
この映画の試写会の後に、監督に「すごく疑問に思ったんですけど、“そんな感じで”っていう演出は、なぜそうしたんですか?」と伺ったら、「“そんな感じで”っていう感じを、自分で感じ取って演じてほしかった」って仰っていました。
「僕がこうしてって言ったらそうするでしょ? でも、そうじゃなくて、“そんな感じで”って言われたことを自分の物にして、それを演じてほしかった」と。“そんな感じで”って言われた時は、私も「これでいいのかな?」とか、「雀はこう思っているけど、こんな感じでいいのかな?」って悩みました。
でも、ちょっと曖昧な部分とか悩んでいる部分が、逆に雀らしい感じとして演技の中で出たんじゃないかなって思うので、それが監督なりの演出の仕方だったんだなって思いました。
──この作品で感じてほしいところなどはありますか?
私が雀を通して感じたことは、両親や身近な人など本当は好きな人に、伝えたいけど伝えられない。そういう弱さも持っているけど、それが弱さなのか強さなのか、どっちが正解なのか分からない中で、悩んだり葛藤することも、人生には必要なんだなって思えるようになりました。
雀が小説を書けないことや、お父さんとうまくいかないなどもそうですが、うまくいかなかったり、苦しかったり、悲しいというのは、人と関わっているからそういう感情を持つんだなって。“そういう感情を持てる=一人じゃない”って、私はこの作品で感じました。
だから、こういう感情を持つことは悪いことじゃないし、むしろ生きていく上でプラスなんだなって思えたので、もし今悩んでいる人とか、ちょっと悲しいな、寂しいなって思っている人がいたら、この作品を見て、同情とかじゃなくて共感をしてもらえたら楽になるんじゃないかなって思います。
──植村花菜さんの主題歌も印象的でした。
聞いた時は「海すずめだ! 雀だ!」って思いました。この映画はあの主題歌がなかったら完成しないなって思うぐらい、すごく好きな曲ですね。本当に「海すずめ」の完成に一つ足りなかったパズルのピースをはめてくれたなっていうぐらい、私にとってすごく特別な曲です。
でも、(歌詞に使われている)「ただいま」とか「おかえり」という言葉は、家族じゃなくてもいろんなものに通ずる言葉だと思うので、「海すずめ」だけじゃなくて、たぶん誰もがほっとする曲なんだろうなっていうのは感じました。
──アクション女優として注目を浴び、昨年は出演映画が5本公開されるなど、アクション以外の作品でも活躍の幅を広げていますが、この作品はご自身にとってどんな作品になりますか?
人が何か感情をぶつけるとか、何か行動に移すということも、大きな“アクション”ではあると思うので、そういった意味で、いろんな“アクション”を表現できる人になりたいなって思いました。
私は私生活ではあまり「前へ前へ」という感じではないんですよ。仕事とか、特技や趣味に対しては「失敗してもいいや、やってやろう!」っていう気持ちになるんですけど、実際に友達や家族のことになると、割と受け身側になるんですね。なので、自分が普段できないことをこうやってお芝居で表現して、同じ気持ちの人の代弁もできたらいいなって思っています。
──最後に読者へメッセージをお願いします。
去年も映画などをたくさんやらせていただいて、作品が完成するたびに取材をしていただくのもうれしいですし、それを読んでくれる方がいるのもうれしいです。
そういう方々のおかげで、「次の作品に向けてまた頑張ろう」とか「この作品をみんなにもっと知ってもらいたい」と思うことができるので、いろんなことに感謝して、これからも頑張っていきたいと思います。
7月2日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー
出演=武田梨奈、小林豊、内藤剛志、岡田奈々、目黒祐樹、宮本真希、二階堂智、佐生雪、上野優華、佐藤永典、野川由美子、小峠英二・西村瑞樹(バイきんぐ)、赤井英和(友情出演)、吉行和子
監督・脚本=大森研一
主題歌=「ただいま。」植村花菜(キングレコード)
配給=アークエンタテインメント
【HP】umisuzume.com/
(C)2016「海すずめ」製作委員会