――ラストのたすくとことね(吉岡里帆)が対峙するシーンのお二人の距離感が印象的でした。
太賀「あのシーンで対峙したときに、吉岡さんの表情一つ一つが、ものすごく苦しくて、彼女の目を見ているだけで、どんどん引き込まれるというか、乗せられていく感覚がありました。たすくは必死に叫ぶけど、向こうは頑なに動かない、そんなんじゃ私は動かないわよ、という想いがものすごく迫真に迫っているというか。吉岡さんのおかげで、もっともっと必死になれた気がします」
――太賀さんご自身から見たたすくとはどういう人でしょうか?
太賀「本来たすくは主人公になれるようなやつではないような気がするんです。過ちを犯して、ここから再起していくというお話の中で、たすくは土壇場になったら逃げ続けるし、負け続ける。たすくの弱さが全面的に映画を覆っているような気がするんです。大概はどこかで意地を見せたりとか、負けん気を見せたりして物語が続いていきますが、この映画はそのたすくの弱さにすごくリアリティがあるなと思うんです。
たすくは会う人によって表情をころころ変えていくし、たすく自身のたすくらしさみたいなものが、あまり一貫してないような気がするんですけど、そこにすごく人間味を感じました。めちゃめちゃ怒られた後にめちゃめちゃのんきなことをやってる。そのシリアスと軽さみたいなものが、この脚本の面白いところだと思います」
――たすくの“弱さのリアリティ”が一貫して描かれているところが、本作のユニークさですよね。
太賀「ラストも、結局はものすごく自分勝手な行動だと思うんです。また誰かに迷惑をかけるし、ラストシーンが終わったあとも、たすくはきっと誰かに怒られるんだろうな。
でも、レールから外れることが許されないこのご時世、そこから外れてもなお娘への愛情でセオリーをなぎ倒していくたすくの行動に突っ込みたくなる自分もいれば、とても共感できる自分もいました。結局たすくって色んな人に愛されている人ですよね。たすくが幸せになってくれればいいなぁと思います」
秋田・男鹿という土地を背景に、人は失敗からどう立ち直っていくのかを描く本作。お金も、仕事も、自信も、自分も、何も持たないたすくが“父親”になろうともがく姿に、共感せずにはいられない一作だ。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)