2020/11/09 22:00 配信
コロナ禍の製作を強いられた映画『えんとつ町のプペル』のリーダーとして決めたことが二つあります。一つ目は、世界の誰よりも努力をすること。二つ目は、この先どんな問題が襲ってきても、1ミリも言い訳をせず、即座に対応すること。
とくにコロナ禍は、理不尽なルール変更が多発する為、リーダーが「言い訳を正当化しやすい環境」にあります。「コロナだから仕方ない」といった。僕は、「それでも空を見上げること」を伝える映画『えんとつ町のプペル』の製作総指揮です。「仕方ない」なんて言葉、死んでも吐くもんですか。
大きな決断をしたのは、「緊急事態宣言」が出ていた5月の会議。その頃、映画の宣伝会議では毎回、コロナの状況が伝えられました。落ち着く気配を見せない新型コロナウイルスに、海外のメジャー作品が、次々に公開延期を発表し、年内公開作品が一つ、また一つと減って行きます。映画館に足を運ぶ人も、すっかり減ってしまい、映画産業の未来すら危ぶまれました。映画『えんとつ町のプペル』は、もともと2020年12月25日公開を予定していましたが、さすがに、この状況です。スタッフから、「西野さん、公開時期、どうしましょう?」という言葉がポツポツと出始めました。「2021年以降に延期」という選択肢もあったのです。
ですが、スタッフから、そのパスを投げられた時(とき)の僕は、コロナによって打ち砕かれた挑戦を、その場にいた誰よりも近い距離で、たくさんたくさん見ていました。ドイツで飲食店を経営している大矢さんは、ロックダウンした街の中で、懸命に家族を守っていました。ニューヨークでミュージカル制作を進めていた小野さんは、ゴーストタウンと化したブロードウェイの真ん中で、一人、ライブ配信をして、涙ながらに「諦めたくない」と想いを語っていました。人が消えた表参道の美容室も、テナントが撤退し続けるショッピングモールのメガネ屋さんも、あのアパレルブランドも、あの靴屋さんも、あの八百屋さんも、皆、生き残りをかけて戦っていました。ZOOMの画面越しに朝まで励まし合ったので、よく知っています。
夢や希望を持ちづらくなった今は、まさに、黒い煙に覆われた「えんとつ町」で、『えんとつ町のプペル』は、そんな中でも、諦めず、空を見上げ続け、挑戦することを選ぶ物語です。その物語の作り手が、自分だけ安全圏に移動するわけにはいきません。「やればできる」ということを自分の生き方で証明して、はじめて、物語の中のセリフに説得力が生まれるというもの。なので、スタッフに言いました。
「公開は延期せず、当初の予定通り、2020年12月25日にしましょう。苦労と理不尽は承知です。それら全てを受け入れて、僕らも、同じようにコロナと戦って、今、苦しんでいる人達の励みになりましょう。その姿勢がこの作品のメッセージですし、きっと、その方が応援してもらえると思います。いろいろ面倒をおかけしますが、最後まで宜しくお願いします」
えんとつ町は煙突だらけ。
そこかしこから煙が上がり、頭の上はモックモク。
黒い煙でモックモク。
えんとつ町に住む人は、青い空を知りません。
輝く星を知りません。
映画『えんとつ町のプペル』は、頭の上を覆う黒い煙を晴らす物語です。この物語が、この物語を届ける僕らの姿勢が、懸命に生き延びる人達への応援歌になり、いつか、また晴れるといいな。
(第13回は11月16日[月]更新予定)
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