こだわっているのは演奏面だけではない。専門的な話になってしまうが、通常はプロに任せるようなミックスやマスタリングといった音のバランスを調整する場面においても、町屋を中心に常人には気づかないレベルの職人技が施されている。
【鈴華】一般的に、ミックスやマスタリングはプロのエンジニアさんに任せることが多いと思うんですけど、まっちー(町屋)は、このバンドと8年向き合ってきた中でうちのバンドにとってどうするといいミックスになるかというのをかなり研究していて、ほぼエンジニアさん目線で何時間もかけてミックス作業に立ち会っているんです。実際の作業を見ていると、細かい帯域まで数字で指定して音を整えていくんですね。例えば、さっきまで聞こえてこなかった和楽器の音がギターを下げることで出てきたり、バンドメンバーじゃないと気づかないポイントを指摘していくんです。そうやって最終的なゴールが見えている人がバンド内にいるのはけっこう大きいと思います。だから、ここまでやってもこの音が嫌いだっていう人に対しては“もうしょうがない”と思っちゃう。たぶん、町屋さんがいなくなってしまったらこのバンドのサウンドを再現するのは難しいと思います(笑)。
【蜷川】「Starlight」が遺作に(笑)。
【いぶくろ】町屋さんが”Starlight”になっちゃって(笑)。
そんなブラックジョークで一同が爆笑するぐらい、バンドメンバーは町屋の感覚と技術に全幅の信頼を置いている。町屋の感覚は作品を重ねるごとにどんどん研ぎ澄まされているようだ。
【町屋】昔は太鼓の音程なんて気にならなかったけど、今はタカトコトコトコって叩いても、ドソソファファミミにしか聴こえないです(笑)。
【鈴華】実は今の和楽器バンドの音は数学みたいに整理されているんです。音が整理されていない『ボカロ三昧』のサウンドも私はいいと思うんですけど、これだけ大人数がいるバンドの音はしっかり整理されているほうがよく聞こえると思っています。
【いぶくろ】僕もどちらの音楽にも良さがあると思うんですけど、音をしっかり整理することによって自分たちが狙う方向を計算して、いまとは違うところへ向かっていくことが大事だと思うんですよね。1枚目のアルバム『ボカロ三昧』は作品としてはすごく好きですけど、1曲1曲の形はざっくり見ると同じなんです。だから、2枚目の『八奏絵巻』も『ボカロ三昧』と同じ調子で作っていたら、「あ、このバンドの音はコレなんだ」という印象しか与えなかったと思うんですよね。でも今は、バンドとしての狙いがはっきりしているからこそ面白いことが発信できているんだと思います。
【町屋】でも、整理された音楽しか認められないのであれば、セックス・ピストルズが売れてるわけがないんですよね(笑)。自由だからこその良さというのが音楽にはあると思います。
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