山梨放送「マキタ係長」、マキタスポーツから感じる“山梨愛”

マキタスポーツ※画像はWEBザテレビジョン タレントデータベースより

テレビ番組に精通するライターの前川ヤスタカが、地方番組に注目し、レビューしていく。今回はYBS山梨放送で放送されている「マキタ係長」を取り上げる。

「僕はね、おばあちゃんに『あんた、わにわにした顔してるよ』だけじゃなく『ふすふすした顔』って言われたこともありますよ」「山梨の人に『のぶい』の意味を聞くと『のぶいは、しわいってこっちゃ』と言うし、『しわい』の意味を聞くと『しわいは、のぶいってこっちゃ』と言う」

甲州弁をお使いの方以外は何の暗号かというような内容だが、これは山梨放送のローカル深夜番組「マキタ係長」の一場面である。

ディープな山梨ローカルトピックを語る「マキタ係長」


2020年10月にスタートしたこの番組。地方番組では定番の「架空の企業」設定のもと、山梨県出身のマキタスポーツを「係長」、同局の元アナウンサーで現フリーの三浦実夏を「社員」として、かなりディープな山梨ローカルトピックを語る15分番組である。

同じ架空企業設定地方番組でも、札幌テレビ「ブギウギ専務」がほぼロケに出っぱなしなのとは対照的に「マキタ係長」はほぼロケに出ることはない。そもそも独自色を出さねばならないという要請もあり、構造的に地方バラエティ番組はロケ主体になりがちだが、事件が現場で起きずに会議室で起こるこの番組はコロナ時代には合っているのかもしれない。

山梨ゆかりのゲストが来ることは多いものの、作業着にワイシャツネクタイのマキタ係長と青カーディガンの三浦社員はずっと同じで、番組開始以後の1年間、驚くほど画面(えづら)が変わらない。そういった意味では限りなくラジオに近いテレビ番組と言ってもいいかもしれない。

このように一見すると予算もかかっておらず、ゆるそうに見える「マキタ係長」だが、内容は山梨の県民性を鋭くえぐるもので、わずか15分(正味12分)とは思えない濃厚な山梨トークが繰り広げられる。

大いに盛り上がった「山梨偏愛かるた」


今年6月に一般視聴者から募集した「山梨偏愛かるた」では「せっかくだから関東に入れてくりょう」「食べたいけど食べられないシャインマスカット」など、県外の人から見てもわかりやすい山梨県民の思いだけでなく、「てっ!てててて!」「ちょびちょびしちょし」などの甲州弁や「お父さん無尽だから」「なんだおまん後輩か」など山梨県民ならニヤリ的な内容もあり、大いに盛り上がった。

山梨県外の人間には、山梨でいうところの「無尽」の位置づけがよくわからないのだが、番組では「特定のメンバーでお金を積み立てて飲み会や旅行などを楽しむ」習慣と解説されている。元々「無尽」は一般的な金融用語で、集団でお金を出し合いそこから一定頻度で給付を受けるような制度のことを指すのだが、山梨ではそこから派生して飲み会や旅行の方が重要視されるようになっているらしい。係長曰く「無尽といえば何でも通ると思ってる」というほど定着したものだとは正直、この番組を観るまで知らなかった。勉強になる。

ちなみに山梨日日新聞のウェブサイトにマキタスポーツが連載しているコラムのタイトルは「大無尽」である。

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