<カムカム>上白石萌音、2カ月で“激動の半生”演じきった実力に感嘆 “三世代ヒロイン”トップバッター見事に務める

2021/12/25 05:30 配信

ドラマ レビュー

安子(上白石萌音)「カムカムエヴリバディ」第35回より(C)NHK

“朝ドラ”こと連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)。第8週「1951-1962」(12/20-24)の途中で安子(上白石萌音)編が終了し、安子の娘・るい(深津絵里)編が始まった。1925年から1951年までの26年間を約2カ月間で一気に演じきった上白石萌音(正確には上白石が演じたのは14歳から)。少女時代から初恋を実らせて結婚、出産、戦死した夫を想いながら女手ひとつで娘を育てた末、その愛娘と悲しい別れが訪れる…かなりの衝撃的な展開に視聴者は騒然。濃密だった2カ月間の安子編を、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)

初恋、母性、忍耐…2カ月で“濃密半生”演じきった萌音


カムカムエヴリバディ」は、“朝ドラ”史上初の三世代ヒロインのリレー形式になっている。

そのトップバッターが安子。1925年、ラジオ放送が始まった年に岡山の菓子店のひとり娘として生まれた安子は、甘いお菓子とおしゃれと家族が大好きで、いつまでもこの幸福な日常が続くことを願っていた。

穏やかな安子の日常に変化が起きたのは、雉真稔(きじま・みのる=松村北斗)との出会いから。岡山で指折りの企業・雉真繊維の跡継ぎである彼に英語の魅力を教わって変わりはじめる安子。恋と英語のためにどんどん行動的になっていく。恋と英語の象徴はルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street(オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート)」。この曲の歌詞にある“日なたの道”が安子の生きる指針になった。

どんなことがあっても“日なたの道”を目指す安子に次々困難がふりかかりはじめる。

稔との身分違いの恋を実らせたものの、彼は結婚後すぐに出征していく。空襲で母・小しず(西田尚美)と祖母(鷲尾真知子)は亡くなり、生き残った父・金太(甲本雅裕)も心身ともに疲弊して後を追うように亡くなる。頼れる身内を亡くした安子は稔の忘れ形見・るいをたったひとりで育てようと奮闘するが、不慮の事故でるいの額に大きな傷がついてしまう。

その後、進駐軍の将校・ロバート(村雨辰剛)との出会いや、兄・算太(濱田岳)の失踪など様々なことがあり、不幸な行き違いで、るいから「I hate you」ときつい言葉を投げつけられる。失意の中で安子の選択は……。

といった安子の半生を振り返ると、これだけ波乱万丈な内容を2カ月で描いたのかと呼吸困難になりそうなほどの密度の濃さと進行の早さであった。

たいていの朝ドラでは、主人公に子供ができて18歳くらいに育つ時期はどんなに早くても放送期間が半分ほど過ぎてからで、終盤、次世代として子供たちが活躍しはじめるとヒロインは若干老けヘアメイクなどを施して、ちょっと落ち着いた4,50代を演じることになる。

安子の場合、14歳から20代半ばまでめくるめくライフイベントを経験、るいとの悲劇の場でばっさりドラマがカットアウトし、るい編となる。濃密な安子の10年強の時間だけが鮮やかに心に深く刻まれた。

家族の愛に育まれていた少女時代の純真無垢さ。稔との真面目で情熱的な恋。るいに対する強い母性。仕事や勉学に対する向上心や忍耐……等々、上白石萌音がどの安子も見事に演じた。

従来の朝ドラだと半年かけてゆっくり描いていくところを一気にやってもまったく不安を感じさせるところがなく見事な変化だった。後半、雉真家を出て大阪でおはぎを売り歩くようになり、るいとささやかな幸福の時を過ごしているときの表情、それが徐々に生活に疲れていってしまう様子は凄みすら感じさせた。

学んだ英語を流暢に話す口調なども堂々たるもの(もともと得意な英語をすこしたどたどしく話していたそうだ)。様々な体験と学習が人間を変えていくのだなあと思わせた。

とりわけすばらしかったのは、るいに対する愛情表現。リアカーにるいを乗せていつも一緒に行動し、「カムカム英語」の教科書にYasuko、Ruiと署名して一緒に勉強して、「カムカム英語」の主題歌を一緒に歌う。

いつも一緒――この濃い愛情生活があったからこそ、安子編の最後、るいが安子に捨てられたと思い込んで母を拒絶したときのショックが莫大なものになる。視聴している私たちも「なんでそんなことに〜」と切なさマックスになってしまうのだ。

上白石萌音の演技が迫真だからこそ、やりきれなさも深まった。それだけの演技をやりきった上白石さんを讃えたいと思う。

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