安子編が終わっても稔と安子の“願い”は物語に宿り続ける
さて安子は進駐軍の将校・ロバートに「I LOVE YOU」と告白されたが、すっかり稔を吹っ切ってロバートとアメリカに行ってしまったのか。それが最大のミステリー。
もちろん生涯、稔一筋でなくてもいい。恋したっていいのだが、稔との関係があまりにステキに描かれていたから、るいじゃなくても寂しくなってしまうのである。でもきっと、安子の中には稔の想いが息づいているのではないだろうか。そう思いたい。
というのは、安子はずっと「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。自由に演奏できる。私たちの子どもには、そんな世界を生きてほしい。日なたの道を歩いてほしい」という稔の願いを口にし続けてきた。
もともと稔は外国でビジネスするために英語を勉強していた。彼の叶えられなかった夢を安子が代わりに引き受けて外国をこの目で見たかったのではないだろうか。それも外国の人と異文化コミュニケーションをしながら。
それが安子にできる、大事なるいが「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。自由に演奏できる。私たちの子どもには、そんな世界を生きてほしい。日なたの道を歩いてほしい」という願いどおりになることになるという一心ではなかったか。その不器用ででも猛烈に強い母ごころがいつかるいに伝わるか。
主題歌である「アルデバラン」の冒頭で語られる“世界が終わる前に、仲良くなれるかな”という内容は、安子の願いのようだ。安子とるいがもう一度仲良くなれる(るいが安子の心を知る)ことこそが「カムカムエヴリバディ」のテーマではないだろうか。
安子編が終わっても、安子の気配はずっとドラマに宿り続ける。それだけ安子は濃密に生きたのだ。
NHK出版
発売日: 2021/10/25